25歳で突然「1型糖尿病」に
――1型糖尿病と診断された時のことを教えてください。
去年の春、発熱と喉の痛みがあり、「風邪をひいたかな?」くらいに思っていました。時はコロナ禍真っ只中。なかなか良くならなかったので病院で検査をしてみましたが、結果は陰性。風邪薬が出て、様子を見るように言われました。
しかし、症状は良くなるどころかどんどん悪化していき、1週間後には呼吸が苦しく、歩くだけでも動悸がするほどに。それでも何とか会社には行っていたのですが、ついに道端で倒れ、緊急搬送されました。
――救急車で運ばれるほど体調が悪化していたのですね。
今考えると、口から喉にかけて砂漠になったかのような強烈な渇きを感じ、水を4L、さらに経口補水液を4L飲み、何度もトイレに行くという異常な状況だったのですが、それも熱のせいだと思い込んでいたんです。でも倒れて、ただの風邪ではないことがわかりました。
搬送された病院で告げられた病名は「1型糖尿病」。入院生活は1カ月に及び、入院当初から糖尿病の可能性があるとは聞いていましたが、そこまで深刻には考えておらず楽観視していたんです。
けれど、両親と一緒に聞いた医師からの説明でわかったのは、これから毎日4本以上のインスリン注射を打って血糖値をコントロールしなくてはならないこと。原因はわかっておらず、誰にでも発症する可能性があること。現代の医学では治らないこと。それらを聞いた時、あまりのショックで声が出ませんでした。事前に聞きたいことをまとめていたのに、喋ろうとすると涙が出そうになって何も言えず、代わりに両親が質問してくれたのを覚えています。
「症状が良くなって、注射ではなく飲み薬になったりすることはあるのでしょうか?」「残念ながらそれはありません。注射の本数が減ることもありません」という会話から、これからは一生注射を打って生きていかなければならないんだ、という現実を突きつけられました。
誰にでもなる可能性がある病気
――それはショックが大きいですね……。そもそも1型糖尿病とはどんな病気なのでしょうか?
糖尿病には大きくわけて1型と2型があり、いわゆる「糖尿病」と呼ばれているのは2型を指すことが多いです。どちらも血糖値を下げる働きを持つインスリンが正常に働かず、血中のブドウ糖濃度が適正値よりも高い状態となる病気です。高血糖の状態が長い間続くと、失明などの合併症を引き起こすことがあります。
2型の場合はインスリンが分泌されにくくなったり、分泌されていても働きが悪いという状態が多く、食事療法や運動療法で適正体重を維持することでインスリンの効きを良くしたり、薬による治療を行うこともあります。
一方、僕のかかった1型はインスリンがまったく、あるいはほとんど分泌されないため、インスリンを外部投与することで血糖値を下げるしかありません。何か飲んだり食べたりして糖質を摂取する度にインスリン注射をする必要があるので、多い時には1日8回打つこともあります。
そしてインスリンを投与することで今度は血糖値が下がりすぎる危険もあり、医者からはどちらかというとこの「低血糖」の方が危ないと言われています。症状が重いと昏睡状態に陥ったりと命に関わるので、なりそうだと感じたらブドウ糖を摂取したりと、常に自分で血糖値をコントロールする必要があります。
一般的に糖尿病患者の9割程度は2型で、1型は数としては少ないですが、子どもや若い世代での発症例も多く、生活習慣や遺伝に関係なく誰にでもなる可能性がある病気です。
※糖尿病はインスリンというホルモンの不足や作用低下が原因で、血糖値の上昇を抑える働きが低下してしまうため、高血糖が慢性的に続く病気です。
1型はインスリン依存型とも呼ばれ、自己免疫疾患などが原因でインスリン分泌細胞が破壊されるもので、インスリンの自己注射が必要です。2型はインスリン非依存型と呼ばれ、遺伝的要因に過食や運動不足などの生活習慣が重なって発症します。その他の特定の疾患やメカニズムによるものや妊娠糖尿病がありますが、糖尿病全体の割合として多くは2型です。(厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病」参照)