手の震えが止まらない…食べることが苦痛に

――誰にでも発症する可能性があるんですね。病気がわかってから生活はどうなりましたか?

入院した時には10キロも痩せていました。糖尿病は食事から摂った糖をうまくエネルギーに変換できないので、もともとある脂肪を分解してエネルギーを作り出します。そのためちゃんと食事を摂っていても体重が落ちやすいと主治医より説明がありました。

病院の食事は糖が管理されているので、1食でどの程度摂取したかがわかります。それにあわせてインスリンを投与していましたが、退院後は自分で管理しなくてはいけません。なので、とにかく成分表示を見るようになりましたね。わかるものは良いですが、困ったのは自炊。何にどのくらい糖質量があるのかわからないため、しばらくは病院で食べた食事を再現していました。

この頃の食事はまず何を食べるかを決めて、糖質量を計算し、調理して、食べる、という一連の流れで2時間はかかっていました。でも、何を食べても血糖値のことが頭から離れず、「おいしい」と感じる余裕はありません。

そんな生活をしばらく続けてみたものの、思ったように体調をコントロールできなかったこともあり、徐々に気持ちが追い詰められていきました。食事は苦痛な“作業”となり、食べようとすると手が震えて動悸がしてくるんです。ただ、インスリンは先に打っているので何も食べないわけにもいかず、食事代わりに糖分の多い甘いジュースを飲んだりと、今思い出しても地獄のような日々でした。

――それはつらいですね。そこからどうやって食生活を立て直されたのですか?

そんな生活の中、『あすけん』のアプリを知りました。食材を入力するだけで糖質量が表示されることに感激しましたね。それまではいちいち計算していたので、一瞬でわかるなんて、なんてありがたいんだ! と(笑)。この生活に慣れてきたこともありますが、あすけんを使い始めて食事にかかる時間が2時間から30分に短縮されました。

朝食は毎日同じメニューなので「MYセット」に入力しておけば糖質量がすぐにわかって安心です。あすけんを使うことでじゃがいもなど糖質が多いとされる食材も怖がらずにチャレンジするようになったり、食べられるものが増えていきました。

SNSの仲間から気付かされたこと

――あすけんがお役に立てて嬉しいです! そこから徐々に食生活が広がっていったのでしょうか。

少し余裕が出てきたら、「同じ患者の人たちは、こんな大変な病気を抱えてどうやって生きているんだろう」と気になり、情報収集を始めたんです。身近に同じ病気の人はいなかったのでネットで検索してみましたが、出てくるのは医学的な情報ばかりで患者の様子が見えてこない。

そこで、SNSで「1型糖尿病」と入れてみたら、たくさんの情報が出てきました。これまで出会ったことのなかった同じ病気の方々の生活を見ていると、みなさんラーメンに寿司、ピザ、うどんなど、これまで僕が避けてきた糖質の多いメニューを食べていて驚きました……!

僕は病気がわかってから血糖値をコントロールすることに必死になりすぎて食事が苦痛になっていましたが、みんな意外と普通のものを食べていることがわかり、「それくらいでいいんだ」と思えたのは大きかったです。

体調はもちろんケアしていかなければいけませんが、それよりも血糖値という数字に縛られ過ぎて好きなものが食べられなかったり、楽しみがなくなったり、落ち込んで鬱になったりと、まさに僕のような状況に陥ることの方が怖いと気づきました。

そこからは徐々に自分でも挑戦するようになりましたね。例えば、今まで避けてきたものを食べて、どこまで血糖値が上がるのかを試してみたり。時には血糖値を測る機械の数値が上がりすぎてエラーになることもあったのですが、僕の場合は喉が異常に渇いたのと、頻尿で夜眠れない状態になるくらいですみました。ただ、おかげでインスリン量の調整のコツは掴めました。

そんなことを繰り返しながら、何を食べたらどうなるかを自分で身をもって体験することで、この病気との付き合い方を学んでいった感じです。おかげで気持ちも少しずつ回復し、今では好きなものを食べて普通に過ごせています。

――そうなのですね! ちなみに、好きなものってどんな食べ物ですか?

ラーメンも食べますし、お酒も飲みますよ。病気以前と同じように、食べたいものを自由に食べる生活を送っています。おいしいものを好きな人と一緒に食べるって、生きる喜びですよね。その時間を取り戻しました。

ただ、あすけんの栄養素グラフで糖質量を確認して血糖値はきちんと管理しているのと、普段はなるべく自炊し、すべての栄養素が適正値になるように心がけています。高得点を目指してサプリも飲み始めました(笑)。食生活が充実したことで、あすけんも以前よりやりがいが出てきました。

自分の経験を誰かのために

――SNSで同じ病気の方の様子がわかったことで、病気と前向きに付き合うことができるようになっていったのですね。

そうですね。それまでは周りに1型糖尿病の人がいなかったので不安も大きく、この先どうしようという感じでしたが、SNSで同じ病気の人が普通に暮らしている様子を目にして気持ちが落ち着いた部分はあります。

ただ、僕の中では病気の原因が不明というのはずっと引っかかっていて。

せめて自分に原因があれば諦めがつくというか、気持ちを切り替えて頑張ろうと思えたのかもしれませんが、原因がわからないというのが病気をなかなか受け入れきれなかった1つの出来事ではあると思っています。

今でも完全に受け入れているかというと、正直微妙なところですが……。