#で可視化された性被害者の多さ

MeTooとは、もともとはアメリカの市民活動家タラナ・バークが黒人若年女性の性暴力被害者支援の草の根活動を組織した際のスローガンでしたが、2017年にニューヨークタイムズ紙と雑誌「ザ・ニューヨーカー」が、ハーヴェイ・ワインスタインによる数十年に及ぶセクシャル・ハラスメントを告発する記事を発表すると、女優アリッサ・ミラーノが「私もセクシャル・ハラスメントや性暴力を経験したことがある」と告白し、同様の経験をMeToo(私も)というハッシュタグとともにSNSで共有するよう呼びかけたことで、広く知られる運動になったのです。

芸能人、アスリート、様々な職業の一般人や学生や母親たちがそれぞれの体験をMeTooというハッシュタグをつけてSNS上でシェアし、いかに被害者の多い問題かが可視化されました。一つひとつの告発は、自分の体験をオープンに語った被害者たち(多くは著名な芸能人だった)の勇気を表しており、被害者たちの行動には感動せざるを得ません。当時、私のタイムラインにも知人のMeTooの投稿がたくさん流れましたが、その中には女性だけではなく男性の友人の性被害体験の告白もありました。

#MeTooと書かれた紙を持つ人
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです

被害が見過ごされてきた構造的な土壌があった

それまで言葉にできずに被害者たちが長年抱えていた苦しみも、加害者も目にするだろう発信をする際の恐怖もまた、想像を絶するものだったはずです。

レイプ体験を公開することで、「あなたの思い込みだ」「あなたのせいだ」などと被害者が批判されるカルチャーが未だに残る中での恐怖。

さらに加害者側は、その加害行為によって長年の間、特段の影響を受けずに済む一方で、被害者の多くにおいては、性被害の恐怖と怒りと不安と屈辱の感情を、何十年間も背負い続けなければならないという非対称性。

SNSの悪質な書き込みやいじめとも似たこの構造によって、被害者は心に消えないダメージを受けることが多いのに対し、加害者は相手に与えたダメージを認識すらしていないことが多いのです。

そのように告発のリスクが高く、訴えも難しいがゆえに性暴力や性被害が見過ごされてきた土壌を変えようという大きな機運が生まれ、同意や身体の自己決定権を男女ともに大切にする基盤が作られ始めたのが2017年でした。

この年を表す言葉が“Feminism”だったことは不思議ではありません。