肩書を目指す時点で限界を作ってしまう

アイルランド出身の19世紀の作家オスカー・ワイルドはこう書いています。

もしあなたがグローサリーの店主や軍人、政治家、裁判官などになりたいとしたら当然目指した者になってしまう。それがあなたへの罰だからです。もしなりたいものを決めずにダイナミックでアーティスティックな人生を歩めば、もし毎日自分のことを決めつけずに人生を過ごせば、あなたは何にでもなれるのです。それがあなたへの報いなのです。

オスカー・ワイルドは、「現実を見なさい」という若者に対する声かけがそもそも間違っていると語りかけています。人はひとたび「軍人」「政治家」「裁判官」といった名詞を目指してしまうと、それ以上の人間にはなれません。大人が子どもに、「将来あなたは○○になりなさい」「△△学校の生徒になりなさい」と名詞を目指すように仕向けるのは、子どもにあらかじめ限界を作ってしまう「罰」だというわけです。

そもそもこれだけ激動している時代、その職業が未来も今と同じように輝かしいものであるとは限らないし、目指す職業がいつまであるかも分かりません。その職業がなくなってからでは、「他に目を向けさせてもらえなかった」と親や自分を恨んでも遅いのです。

名詞ではなく「動詞」で励ますことが重要

今、世の中にないものを形にするクリエイティビティも育ちません。名詞を目指したばっかりに「罰」を受けることになってしまうわけです。けれど、どんな親も我が子には、自らの可能性をできる限り伸ばして、その未来を輝かせてほしい、と願っていることでしょう。では、子どもを伸ばしたい親は、どのように声をかけるべきなのでしょうか。

私が主宰するサマースクールSIJで講師をお願いする学生は、ハーバード生100人余りの応募から、私自身が毎年、書類と面接で選抜しています。「親から言われてとくに今の自分に影響を与えている言葉は?」と聞くと、彼らが決まって口にする言葉があります。それが“Make an impact(社会に影響を与える)”です。

両親と子供
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

彼らは、親御さんにことあるごとに“Make an impact!”と励まされて育ったというのです。彼らは成長過程で決して「~~になりなさい」という名詞を目指すようには言われていません。「世界に、社会に影響を与えなさい」と「動詞」で活躍するように励まされて育っているのです。

「社会を変えよう」と思って育てば、“You can be anything!(何にでもなれる!)”です。一方で「お医者さんになりなさい」と言われて育てば、お医者さんにしかなれません。もしなるなら、Make an impactなお医者さんになってほしいですよね。