若い人に「本物」を教えてあげるお金の遣い方

こうしてお金を遣うことばかり言うのが、「時代遅れ」だとか「バブルをひきずったオバさん」とか言われることもわかっています。

林真理子『成熟スイッチ』(講談社現代新書)
林真理子『成熟スイッチ』(講談社現代新書)

それでも提案したいのが、もし、少しでもお金に余裕があるのなら、ぜひ若い人や後輩たちに「本物」を教えてあげるお金の遣い方をしてほしいということ。

オペラや歌舞伎の観劇や相撲、若い人が気後れしてしまうようなお鮨屋さんのカウンターに誘うのもいい。河豚もご馳走してあげたい。もっと気軽に出来ることというなら、古典の名作といわれる本をプレゼントするのだっていい。若い人たちがどんどん節約志向になっていて、たぶんその流れはもう変わりません。「お金を遣わないこと=センスがいい」という価値観が定着してしまったからです。ですから、若い人に本物の文化を伝えるために、今の大人たちはお金を遣ってあげるべきだと思います。

そうして味わった本物の経験は、彼らの中で必ず残るはずです。そのことをお金を遣った自分の喜びと出来るか、面白いと思えるか。成熟した人のお金の遣い方はそこにかかっていると言ってよいでしょう。

もちろん私は今までの自分のお金の遣い方のすべてに後悔がないわけではありません。反省しきりです。本が売れていた時代にお金を貯めて、たとえばマンションを一棟まるごと買ったり、もっとお金を増やすことをしておけばよかった……。

夫も年をとってきたから二人で介護施設に入ったりする将来を考えると、またお金がすごくかかってしまう。今のようにお手伝いさんもいて、別荘があって、食べたいものを食べて着たいものを着て、という生活があと何年できるのか。恐ろしく不安になります。そしてまた私は「もっともっと働かなくては」という思いを強くするのです。

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