ワンフロア丸ごとリニューアルを任された

北村「話を聞くと、撤退するはずだった髙島屋を買い取った地元の名士が現在のオーナーで、今回オファーをしてくれているとのこと。百貨店って地方経済の中心にあるものだから、閉店させてはいけない! という思いがすごいということでした。

たしかに、百貨店を買い取るってなかなか勇気がいる行動じゃないですか。オファーを断る気持ちは変わっていませんでしたが、その人に対する興味が湧いたので、一度会いに行くことにしたんです」

大阪からバスで3時間半かけて米子市へ。百貨店を見た瞬間、北村氏は「そりゃつぶれかけるわ」と実感したという。

リニューアル前
提供=リビングハウス
リニューアル前のフロアの様子

北村「とにかくすてきじゃなかったんですよ。心が躍る空間ではなかった。百貨店ってハレの場であるはずなのに、気持ちが全く晴れない。

オーナーとお会いした時、印象をありのまま正直に伝えました。そしたら先方が『出店だけじゃなくて、ワンフロアまるまるリニューアルしてくれ』って言い出したんです。これには驚きました。でも、百貨店のワンフロアをプロデュースするなんて、そんな機会はなかなかない。しかも相手の本気度がものすごく伝わってきました。『よろしくお願いします』とその場で決断しましたね」

用意された予算は修繕費込みで“たったの1億円”

断りに行ったはずが、むしろ大仕事となって戻ってきたJU米子髙島屋のプロジェクト。課題は山積みだったが、北村氏は“地方のポテンシャル”は感じていたという。

リビングハウスでは過去に地方の創生を成功させた実績があった。福岡の郊外にある遊休地の倉庫をプロデュースし、1円も生み出していなかった倉庫を、売り上げ1億円ほどの店舗に変えることに成功していたのだ。とはいえ、米子は福岡に比べると圧倒的にアクセスが悪く、課題は山積み。リニューアルはどう進めていったのか。

フロアの総面積は450坪。都心の百貨店と比べたら小さめだが、一般的なテナントが20店舗ほど入る規模感だ。オーナー会社の「ジョイアーバン」から提示された予算は、1億円。

北村氏はこの予算を「5倍は欲しかった」という。というのも、新しく店舗を作るのと異なり、今回のリニューアルでは古くなった部分を「直す」費用も必要となる。老朽化しているところを修繕する費用も、棚などの什器を新しく用意するお金も、すべてこの“1億円”に含まれていた。