当初は中間駅の建設費は地元負担だったが…
期成同盟会の地域振興への働き掛けが功を奏して、JR東海は2009年8月、リニアが通過する各県に「地元負担による1県1駅」の中間駅の設置を約束した。説明文書には「中間駅については、地元負担(5900億円、うち名古屋まで3300億円)で建設する」と記されていた。
2011年5月の整備計画決定で、長野県などの反対を押し切って、これまで議論されてきた迂回ルートではなく、最も採算性の高い直線ルート「南アルプスルート」が採用された。これにより、突如静岡県もリニア通過県となった。
静岡県は期成同盟会に加入しておらず、新駅設置などについて全く議論されることはなかった。その結果、リニア沿線の都府県のうち、唯一新駅が開業しないことがあっさりと決まってしまった。
さらに、JR東海は同年、地元負担としてきた中間駅の建設費用をすべて負担することを決めた。つまり、約800億円にも上る各県のリニア中間駅という地域振興策をJR東海が負担することで、各県はリニア建設の円滑な推進のために全面的に支援することとなった。
形の上では同じリニア通過県なのに、静岡県のみが蚊帳の外に置かれた。これが川勝知事には納得できない不満として残った。
「大井川の水」問題をやり玉に挙げたワケ
このような中、2017年10月の会見で、川勝知事は突如、リニアトンネル工事の水環境問題をやり玉に挙げて、JR東海の対応を厳しく批判した。
2018年夏には、リニアトンネル工事による水環境保全を目的に、流域10市町長らをメンバーとする「大井川利水関係協議会」を設立し、ほぼ同時に専門家による地質構造・水資源、生物多様性の2つの専門部会を発足させた。
川勝知事の腹の中には、リニア通過県なのだから、沿線各県と同様の地域振興をJR東海から勝ち取りたいというもくろみがあった。
川勝知事はJR東海の主張を一切了解せず、両者の協議は膠着状態が続いた。