スーパーにはなかなか真似できない

「なるほど。だったらスーパーでも対面販売をやればいいではないか」と思われるかもしれませんが、これには難しいところがあります。

なぜなら、他の食品はこれと真逆な状況だからです。例えば、肉であれば、種類は牛・豚・鳥の3種と少なく、冷凍流通が主で、日々の仕入れがダイナミックに変化しません。

このような場合は、日々画一的な対応を組み立てる方が効率的です。

スーパーで魚を選ぶ人の手
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです

また、スーパーのような大規模に展開する形態では、なるべく業務を画一的にして横展開していく方が効率的です。

魚は本来、臨機応変な対応をした方が売れる商材です。これは画一的なものを大量に提供する方が効率的という、肉などの他の食品やスーパーという形態とは真逆です。しかし、時代が進むにつれてマス消費が進み、流通を画一的に整える動きが広がり、魚もそれに合わせなければいけなくなりました。

このような画一的な流通では、なるべく人為的な部分を排除し、マニュアル化やシステム化を進めた方が効率的です。その結果、人件費が削減されていくのです。

魚小売の理想は「間口が狭い店内で対面販売」

では、対面販売のような臨機応変な対応をするにはどうすれば良いでしょうか。これには、マニュアルでもシステムでもなく、人が対応するしかありません。

そして、臨機応変な対応が可能になれば、魚は売れるようになります。これが、「人件費をかけられると魚屋の売上が伸びる」の理由です。

ながさき一生『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
ながさき一生『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)

魚屋の効率的な経営で削るべきは人件費ではなく、土地代をはじめとした人件費以外の部分なのです。

このことは、角上魚類が売上を伸ばし続けてきたことが証明しています。そして、昔の魚屋もそうでした。

間口が狭い中で、しっかりと人がついて販売する。このスタイルは、魚の小売という形態において非常に効率的だったのです。

しかし、食品流通全体がシステマチックなマス流通に向かう中で、このような体制を確立することが難しくなってきたのが現在の姿です。

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