昔ながらの魚屋は「お魚コンシェルジュ」だった

街にスーパーが台頭してくる前の時代。全国の商店街には魚屋が立ち並び、その頃は魚が売れていました。

では、その頃と今では何が違うのでしょうか。そして、前の節で述べた人件費を掛けられると魚屋の売上が伸びるのはなぜなのでしょうか。

まず、商店街の魚屋と角上魚類にはある共通点があります。それは、対面販売を行っているという点です。

鮮魚店で働く人
写真=iStock.com/sguler
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街の魚屋は、狭い間口の店先に魚を並べ、お客と話をしながら売る対面販売が基本となっていました。そして、やってきたお客に「今日は何がおすすめか」「どのように食べると美味しくいただけるか」などの話をしていたのです。今風の言葉で表現するなら、「お魚コンシェルジュ」の役割を果たしていたのが昔の魚屋でした。

しかし、スーパーが台頭してくると街から魚屋が消え、「お魚コンシェルジュ」がいなくなっていきました。この頃から魚の消費がどんどん減って魚離れが進んでいきます。

日本人は食べる魚は500種類以上

実は、この「お魚コンシェルジュ」は、鮮魚の流通にとって非常に大事な役割を果たしていたのです。どういうことかをお話をしましょう。

魚の生産方法は、今も天然から魚を漁獲する方法が半分以上となっています。そうすると、毎日入荷状況が変わってきます。

今日安く仕入れられた魚が明日高くなるかもしれませんし、違う魚が安く入荷してくるかもしれません。また、普段見ない魚が入荷してくることもあるでしょう。

さらに、魚は種類が豊富で、日本で主に食べられている魚種だけでも30種類は超え、時々食べるものも含めると500種類を超えてきます。さらには、加工品も様々なため、魚全般の知識は莫大ばくだいなものとなります。

多種多様なものが日々違う状況で入荷する。これこそが、魚という生鮮食品の最たる特徴です。このような扱いの難しい食材は、置いておくだけでは売れません。

私たちは普段、電球のようなわかりやすい商品であれば特に考えずに買いますが、パソコンのような複雑な商品の場合は調べたり、店員に聞いたりして買うのが普通です。魚の場合は、お店に置いてあるものが激しく変わるため、調べて知識をつけるよりもその場で店員に聞いた方が早い状況です。

このような状況だからこそ、「お魚コンシェルジュ」の立ち位置は重要で、今でも「魚は対面販売が一番売れる」と言われる所以なのです。