12年前にひらめいたアイデアを実現させた
空からシームレスに地上に降り立つというアイデアは、本作ディレクターの藤林秀麿氏が、2011年発売の『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』開発時代にひらめいたという。青沼氏がゲーム・インフォーマー誌へのインタビューで語ったところによると、当時は技術的な限界で実現せず、空と地上はそれぞれ独立した別世界として扱われたようだ。
そしてついにSwitch上で本作が登場し、ロード画面を出さずに天空と地上を自由に行き来することが可能となった。青沼氏は語る。「宮本さん(任天堂代表取締役フェローの宮本茂氏)もおっしゃっていたと思うのですが、アイデアがあってそれを実現したいとき、たとえ上手くいかなかったとしても、諦めるということはないんです。ただただ適した機会が訪れるのを待つんです」
「これは私たち開発者すべてに言えることだと思うんですが、そういうアイデアは頭の片隅に残っていて、それを宿しながら仕事をこなしていく。それが積み重なって、来るべきチャンスが現れたとき、そのアイデアを実装することができるんです」
開発者用の機能をユーザーに解放する大胆さ
縦への行動範囲を広げる新たなしくみとして、天井を突き抜け上へと移動する能力「トーレルーフ」が登場した。青沼氏は、米大手ゲームサイト「ポリゴン」のインタビューのなかで、その開発経緯を明かしている。
この能力はもともと、開発チームが用いていたデバッグ用の特殊機能だったという。開発チームは洞窟探検を終えると、デバッグ機能を使って地上に戻っていた。そこで藤森氏はひらめく。「それで、これはもしかしたら、ゲームの一部として使えるかもしれないと思ったんです」
ちょうどそのころ青沼氏は、洞窟探検を一通り終えたあと、来た道をただ引き返す作業の単調さを課題に感じていた。青沼氏が「戻るのは面倒くさいなあ」とこぼしたことから、作品の機能として正式に実装されるに至ったという。
これは、プレイヤーの行動に複数の選択肢を与えるという開発方針とも合致するものだった。その後、意図しない挙動でユーザーが行き詰まることのないよう細かな調整を重ね、新たな「能力」として提供したという。
小さな不快感を見逃さず改善を積み重ねた本作は、多くのプレイヤーの心を掴んだようだ。移動に多くの時間を費やす本作だが、不満はほぼ聞かれず、むしろどう移動しようかと頭を捻る喜びとして成立している。米ゲームサイトのニンテンドー・ライフは、「正直なところ、(空・陸・地底の)3つのマップをいくら行き来しようと飽きが来ない」と感想を述べる。