リーマンショックと人員削減の共通点
政府の誤りは、リーマンをその規模だけで判断した点にあった。政府はリーマンが倒産したとしてもその影響は限られており、当のリーマン本体とほかの少数の企業に打撃を与えるだけだと思ったのだ。だが、この判断は間違っていた。問題は会社の規模ではなかったからだ。AIGもリーマンも大きすぎたのではない。「わかりにくすぎた」のだ。
とにかく、これらの企業のビジネスは複雑すぎたのである。リーダーやマネジャーを含めて誰一人、完全には理解していないような小さな取引が無数にあった。これらの企業は、巨大なビジネスを無数の小さな破片に切り刻んで、それを何百万人もの人にばらまいていたのだ。そして、その行方を正確に追跡するのは不可能だった。
その結果、いわゆる「ゴルディアスの結び目」が生まれた。伝説によると、古代フリュギアの王、ゴルディアスが、誰も解けないような複雑な結び目をつくったとされている。それはどこで始まり、どこで終わるのかもわからず、何百年もの間、誰も解けなかったという。
この話から得られる教訓は何か。会社と同じく、社員が解きにくい仕事をしていればいるほど、その社員を解雇するのは危険で、影響を予測しにくいということだ。裏を返せば、社員の仕事を解くこと、すなわちどのように仕事を進めており、その仕事は誰に影響を及ぼすのかを理解することが容易であればあるほど、その社員を解雇するのは安全だということになる。
ここでリサの話に戻る。私はリサの上司のサム(仮名)に、リサの解雇の理由を尋ねてみた。この件ではサムも面食らっていた。解雇の決定は組織のもっと上のレベルでなされたのだ。
サムはこう説明した。
「はっきり言って、リサは解雇しても安全な社員だったから解雇されたんだ。彼女がどんな仕事をしているか、誰と協力しているか、何に責任を負っているかを、われわれはよく知っていた。彼女の仕事はきちんと整理されていた。彼女を解雇したらどんな影響があるかを簡単に理解できたんだ。彼女より能力的に劣る社員、生産性が低い社員、出来の悪い社員もいるが、そうした連中を解雇できないのは、彼らがどんな仕事をしているのか、彼らを解雇したらどんな影響があるのかが完全にはわからないからだ」
つまり、リサは仕事のやり方が明確で、まじめで、きちんとしていたから解雇されたというわけだ。もっといい加減なほかの社員は、どのような仕事をしているのかがわかりにくく、解雇した場合のリスクが高かった。まさにAIGやリーマンの個人版であるが、そのため、職を失わずにすんだのだ。