口癖は「へー、すごいね」「それ、どういう意味?」

【尾崎】実は、私自身も中学受験の経験者なんです。第1志望には合格できず、往復で2時間半を費やす私立中学に通っていました。でも、半年でやめて公立中学に通うことになったんですね。合格した学校が本当に自分に合っているのか、6年間通い続けられるのかは、結局のところ入学してみないとわからないですよね。その意味では、ぎん太さんはよかったですね。

尾崎英子 大阪府生まれ、東京都在住。早稲田大学教育学部国語国文科卒。 『小さいおじさん』で第15回ボイルドエッグズ新人賞を受賞して作家デビュー。 著書に『ホテルメドゥーサ』『有村家のその日まで』など。 中学受験小説『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)が話題。今号より連載小説が開始(P.90)。
撮影=岡村智明

【ぎん太】そうですね。結果的には開成にご縁があって本当によかったです。実は、一時、ゲームにはまってしまい成績が落ちてあわや退学の危機、ということもありました。オンライン授業中にゲームをしているのが親にバレてからは、授業をきちんと聞くように。聞いてみるとやはり開成の先生の話は面白い。そこから持ち直しました。自由な校風も僕に合っていて、いい学校に入れたと思っています。

尾崎英子『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)
尾崎英子『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)

【尾崎】ぎん太さんはほとんど塾に通わなかったそうですが、自宅での受験勉強でいちばん大変だったことって何ですか?

【ぎん太】好きな本を読んだりゲームをしたり、やりたいことがいっぱいあるのに我慢しなくてはならない。それがつらかったです。受験するのは自分の意思でしたが、これほどの勉強量とは思っていなくて。特に公民や歴史がつらかった。小学生なので政治のことなんか興味もないし、何のためにこんなことを覚えなければいけないんだって。

【尾崎】私も長男を進学塾に通わせて、あらためて勉強量の多さに驚きました。自分で受験を勧めておきながら、これほどの負荷を12歳の子供にかけることが、本当に必要なんだろうか、と。そうした思いとのせめぎ合いがずっとありました。

特に小6の後半は塾の課題がぐんと増え、見るに忍びず「もう、やめたい」という気持ちを私自身が常に抱えていました。けれど、本人がやる気になっているのに親がそれを言っちゃダメですよね。そこを耐え続けるのが、私のいちばんしんどい時期でした。

ぎん太『偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法』(講談社)
ぎん太『偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法』(講談社)

【ぎん太】ご長男自身は、つらかったんでしょうか?

【尾崎】長男がいちばんつらかったのは小5のときだったと思います。友達と遊ぶのが大好きな子だったので、しょっちゅう私の目を盗んで遊びに出かけていました。その頃は「なんで受験勉強なんかやらないといけないんだろう」という気持ちだったと思います。小6になったら周りも受験モードで勉強一色になるので観念したのか、淡々としていましたね。ぎん太さんは、どうやってつらい時期を乗り越えたんですか?

【ぎん太】わが家では、小さい頃から母が遊び感覚で学ばせてくれていたのですが、中学受験の内容も、母が一緒に勉強してくれたことで、だんだん楽しくなってきたんです。四谷大塚の「予習シリーズ」というテキストを使って、母と一緒にそれを読み、学んでいました。

学年が上がるにつれ内容も難しくなり、母はついてこられなくなったんですが、僕が読んで「なるほど!」と思ったことを母に教えていたんです。母は「へー、すごいね」と面白がったり驚いたりしながら聞いてくれ嬉しかったです。母は、事あるごとに「それってどういう意味?」と質問してくるんです。聞かれたことを調べて、また教える。その繰り返しで力がつきました。