不本意な異動や役職定年など、50歳前後はショッキングな出来事が増える。経済コラムニストの大江英樹さんは「私は50歳を前にしてある種の戦力外通告を受けて、社内ではあまり陽の当たらない部署へ異動になった。しかしそこで新しい専門性を磨いたことや人脈を築いたことで70歳となった今も楽しく仕事ができている」という――。

※本稿は、大江英樹『50歳からやってはいけないお金のこと』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

スタートラインに立つビジネスチーム
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

50代になったら今の仕事を今まで以上に頑張るべし

私は、色んな企業の50代前半の方向けの研修で講師をする際、いつも参加者の人たちに「みなさん、早く成仏しましょう」と言っています。にもかかわらず、「50代で仕事を頑張るべし」と言うのは、少し言っていることに矛盾があるのではないかと思われるかもしれません。

たしかに、50歳になると、それまでとは違って働きづらくなることは事実でしょう。

その理由は、

①そもそも働き盛りは30~40代。50歳から頑張っても先が見えている
②役職定年があり、責任ある立場を離れることがある
③体力的にも若い時よりかなり衰える

といったところでしょう。これらは全てそのとおりです。

しかし、ここで発想を根本的に変える必要があります。

長く働こうということなら、再雇用では無理です。なぜなら、多くの場合は65歳までしか雇用されないからです。したがって、65歳以降も長く働こうとすると、定年後に他の企業へ移ったり、自分で事業を始めたりすることが必要です。そのために最も重要なことが、今の仕事を頑張ることなのです。

これは意外に思うかもしれませんが、事実です。

65歳以降も働くために必要なのは「専門性」

多くの人が仕事を頑張るのは、今の会社で昇格することを念頭に置いているはずです。だから、50代になって出世コースから外れてしまうと「頑張っても仕方ない」と思ってしまうのです。ところが、シニアの転職で最も重視されるのは「専門性」です。それが技術であれ、営業であれ、庶務業務であれ、どんな種類の仕事でも高い専門性を持っていることがとても重要です。

特に昨今は若い人が起業したスタートアップ企業やベンチャー企業も増えています。そういう企業は、自分たちの本業については優れたノウハウや技術、サービスを持っていたとしても、経理や営業や法務といった部分はまだそれほど強くありません。したがって、長年企業で働いて一つの業務に専門性を持っている人が、そうした新しい企業で必要とされる傾向が強いのです。私の知人でも、上場企業に勤めていて、定年後あるいは50代後半でそういう企業に請われて行った人が何人もいます。

ただし、そういう人には特徴があります。

それは、社内で出世することよりも自分の専門性に磨きをかけてきた、言わばある種の職人気質の人です。中小企業やベンチャー企業が求めるのは経営者ではなく、その分野に特化した技術や知識を持っている人だからです。