叱らないように環境を整える

発達につまずきのある子どもたちは、まちがった行動から学び、正しい行動に修正していくことが苦手な場合が多いです。

だから、前提として、なるべく失敗できない(まちがった行動ができない)環境を整え、正しい行動だけを積み重ね、定着させていくことが基本的な戦略です。特別支援教育では、この「失敗できない環境」を整えることに気を配っています。

たとえば、先生の説明を聞いてからその手順通りに工作をする授業。

このとき、説明の「まえ」に材料を配ったらどうなるでしょう。

説明をはじめるころ、子どもたちは、目のまえにある画用紙やハサミが気になって触り、集中して聞けないことがほとんどです。そしてこれを目にした先生は「説明している最中なのに、なんで画用紙やハサミを触ってるんだ!」と叱ることになります。

だれも得しないやつですね。

だから、説明の「あと」に材料を配るんです。そうすると、説明中に材料を「触らない」ではなく「触れない」「触ることができない」環境を設定することができます。

この例で、あえて説明の「まえ」に材料を配るときは、「今から材料を配りますが、説明している間は材料に触らず、先生の話を聞いてください」という「正しい説明の聞き方」を提示しておくべきでしょう。あえて「触ることのできる」状況で、触らない練習ですね。

このように、失敗「しない」ではなく、失敗「できない」環境を整えることをまずは工夫していきましょう。

冷蔵庫にビールがあるから、禁酒中であっても飲んでしまうんです。ビールがないなら飲めません。これとおなじです。

どんなときに「叱る」べきか

常々、わたしは「叱る」より「ほめる」を大事にしています。

もちろん、これは決して「叱らない」を意味しているわけではありません。「ほめる」と「叱る」の二択で、常に「ほめる」に体重をかけておくことは、「叱る」をずいぶん遠くに追いやれます。「叱る」に体重をかけた指導はしたくないんです。「ほめる」を増やして、「叱る」を減らしていきたい。

ダメなところ、まちがったところを見つけて叱ることより、いいところ、正しいところをほめて伸ばし、全体の行動のうち「正しい行動」の割合を増やすことで「まちがった行動」の割合を減らしていくイメージです。

【図表1】ほめて正しい行動を増やす
図版=平熱『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』より、イラスト=©まる

とはいえ、なんでもかんでも「ほめる」を推奨しているわけではありません。

よくない行動や発言を、「適切に」叱ること、注意することは「ほめる」とおなじくらい大事です。

やっちゃいけないのは、叱ることではなく、子どもを「恐怖でコントロールすること」です。

では、どんなときに子どもに注意をしていけばいいでしょうか。

基本的には、発達につまずきがあろうがなかろうが、叱る基準にちがいはありません。

いちばん極端な例は「法律に触れること」ですし、「人の心身や物を傷つけること」も当然その対象です。

反対の言い方をすると、そうじゃないことは、なるべく怒らず、落ち着いて指導をするように心がけています。