測定や分析ばかりに凝る経営者は二流
本書の原題は、そのものずばりの“Managing”。経営とはつまり、成果をもたらすことであり、マネジャーとは成果をたたき出す人間である。これがジェニーンのシンプルかつ不動の信念だ。
徹底して人間主義だからこそ、こういうことがいえるのだと思う。表面的な経営者は、測定だの分析だのに執心して、どんどん人間の要素を排除し、機械のようにあるインプットを入れれば約束されたアウトプットが出てくると考えてしまいがちだ。そのほうがなにか「上等な経営」をしている気になるし、なにより経営者にとって楽だからだ。ジェニーンはその逆を行く。測定も分析では本質はつかめない。自らのセンスこそが頼みである。「ビジネスの世界では誰もが2通りの通貨――金銭と経験――で報酬を支払われる。金は後回しにして、まず経験を取れ」という彼の言葉。これこそ彼の生き様そのものである。
ジェニーンという人は、絶対にフワフワしたことを言わない。地に足がつきまくっている超リアリストである。英語でいう「ハンズオン」、現場主義、実務主義の人である。表面的なキレイごとに振り回されず、自分のアタマで100%納得できることしか話さない。
何かというと「求む!社内起業家」とか「大企業にも起業家精神を!」といった言葉を口にする経営者は多い。しかし、ジェニーンはITTのような大企業の経営には起業家精神は必要ない、と断言している。この辺がジェニーンの真骨頂である。
大きなリスクを取って一発当てる仕事と、何百万、何十万ドルという資産を委託されて、公開された大企業を動かしていく仕事とは、その性格や求められる資質、能力が根本的に異なる。GMのような大会社の経営者であれば、何か一つの試みに会社を賭けたりすることはできない。起業家精神は、大きな公開会社の哲学とは相反している、というのがジェニーンの考えだ。起業家は革新的で、独立独歩で、大きな報酬のために、常識的な限界以上のリスクを進んで冒す。一方で、大企業の経営者は、比較的小さな報酬のために、斬新的な、比較的小さなリスクを冒すことしか許されない。大企業の経営者は過ちを起こさないことが大切であり、そこに評価がかかっているというわけである。