プーチンと傭兵集団にできた亀裂

訓練不足の兵を大量に送り込む手法には、無理があったようだ。CNNによるとワグネルは、すでに囚人の採用を停止したという。プリゴジン氏は理由を説明していないが、「大砲の餌食」をばらまく従来の戦法が状況に適合しなくなってきていることや、この採用手法がワグネルの財政を圧迫した可能性があるとCNNは指摘している。

英ガーディアン紙によると、プリゴジン氏は2月、ウクライナ東部地域の攻略について、完了までに1年半から2年かかるとの見通しを示していた。「ドニプロ川まで行かねばならない(支配域を広げなければならない)ならば、3年ほどかかるだろう」とも述べている。

ガーディアン紙は、氏の発言はロシア軍の公式見解ではないとしながらも、戦闘の実務を担う傭兵集団のトップ自らが、攻略の厳しさを認める発言になったと捉えているようだ。記事は「今回の紛争に対するロシア側の見通しについて、貴重な洞察を与えるものである」と評価している。

ワグネルの内部事情に加え、同社とプーチン氏との摩擦も、プリゴジン氏が不満を募らせる要因のひとつになっているようだ。ニューヨーク・タイムズ紙によるとワグネルは、勝手に同社の弾薬を盗用したとしてロシア当局を非難するなど、しばしばロシア当局との間に緊張を生じている。

ロイターも4月26日、二者の不和を報じた。プリゴジン氏がTelegram上で音声メッセージを発表し、ロシア当局を非難したという。氏はロシア国内で「裏切り」が起きていると述べ、戦闘に必要な弾薬を兵士に届けなかったとしてロシア防衛省を非難した模様だ。

2023年1月3日、ヴァレリー・ファルコフ科学・高等教育大臣との会談に臨むプーチン大統領
2023年1月3日、ヴァレリー・ファルコフ科学・高等教育大臣との会談に臨むプーチン大統領(写真=Presidential Executive Office of Russia/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

ウクライナの反転攻勢が和平交渉のきっかけになる

ワグネルの体制に過負荷が指摘される一方で、領土の回復を目標に掲げるウクライナ側にも、一定の譲歩が必要との指摘が出ている。

当面の春の攻勢にあたっては、ウクライナ側に一定の利があるとする分析も多い。ニューヨーク・タイムズ紙は、米国防総省からのリーク文書を基に、1旅団4000人の兵士からなるウクライナの戦闘旅団が12旅団整う見込みだと報じている。アゾフ海の海岸線やクリミア付近で展開されるという。

同紙によると、元駐ロシア米国大使でNATO高官のアレキサンダー・バーシュボウ氏は、「すべてはこの反攻作戦にかかっている」と述べたという。

バフムートでの戦闘では弾薬の枯渇で大きな被害を被ったウクライナ軍だが、現在は欧州の戦車やアメリカの装甲兵員輸送車で武装している。同紙によると米軍関係者は、ウクライナ軍が再びロシア軍を驚かせる可能性があると語っている。