「ヒトツブカンロを良くしたい」

泣き疲れて冷静になってみると、思い当たることがあった。NB商品(ナショナルブランド商品)を長年担当してきた経験から、直営店の商品企画も同じスタンスで行ってきた。ここまでデザイナーがつくりあげてきた「ヒトツブカンロ」としてのブランディングや商品の見せ方があるのにもかかわらず、自分の考えを押し付け過ぎていたのかもしれないと。

デザイナーからのメールを読み返したときに「ヒトツブカンロを良くしたいんです」という言葉に目に留まった。目指しているものは同じであることを再確認し、翌日返信をした。「私もヒトツブカンロを良くしたいです」と書いたうえで、自分の至らなさを詫びたのだ。数日後には電話することができ、ようやく和解できた。

そのデザイナーとは、金澤さんが現場を離れてからは直接のやり取りはないものの、今でもプライベートで食事にもいく仲だという。

「利益が出ない店舗は撤退すべき」

そうした現場での失敗を経て、初めて管理職になったのは2017年。少しでも店舗を良くしたい、お客さまに喜んでもらいたいとスタッフと共に力を尽くしていたが、売り上げは伸び悩んでいた。そんなとき役員会で、ある役員に言われた言葉があった。

「『利益が出ない店舗は撤退すべき』と。経営層にとっては当たり前かもしれませんが、現場のスタッフの頑張りや思いを知っていた私は、その時の“単なる数字”だけを見て判断されたことに、一気に頭に血がのぼってしまいました。もともと負けず嫌いな性格だけに、『数字のみで判断されるのなら、数字で見返そう』と火が付いた瞬間でしたね」

悔しさをバネに人件費や製造原価、輸送費などのさまざまなコストを見直しながら、少しずつ改善を積み重ねていく。

そんな中でじわじわ伸びていたのが、オープン当初からあった「グミッツェル」だ。インスタやユーチューブにあげる人たちが増え、「パリッ」という咀嚼音の動画(ASMR)が話題になってきていた。しかし、盛り上がりかけていた矢先に、見舞われたのがコロナ禍だった。