高い離職率を抱える会社は、どこに問題があるのか。マネジメントコンサルティング会社「スキルティ」の中塚敏明社長は、創業5年目のIT企業「ネットビジョンシステムズ」で41.5%だった離職率を6年間で4.5%に改善した経験をもつ。中塚氏の著書『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を紹介する――。
なぜ給料アップした社員は、数カ月後に退社したのか
「どうして僕の給料が上がったんですか!」
社員から予想外の言葉を返されたのは、2015年の秋のことでした。社長面談の最中に、入社2年目の一般社員が、目に涙を浮かべて私に詰めよったのです。
(給料が上がったのに、何が不満なんだろう?)
私としては、派遣先でお客様からの評価が高い彼の働きぶりに、目に見える形で報いたつもりでした。しかし、本人は「そもそも会社の方向性がわからないし、自分が昇給した理由にも納得できない」と、抗議したのです。
結局彼は昇給した数カ月後に、会社を去りました。
今の自分なら、彼が何を訴えたかったのかがわかります。
けれども、当時は創業から5期目で、3名からスタートした会社は社員数50名を超え、会社は組織としての大きな転換期を迎えていました。
私自身もプレイングマネジャーから経営者への転身を図ったばかりで、社員の意識までには、考えをめぐらせる余裕がなかったのです。
いくら新人を採用しても、次々と退職
給料アップに抗議するかのように社員が辞めた後も、当社は業務の拡大に伴う人手不足解消のため、積極的に採用活動を続けていました。
ところが、いくら新人を採用しても数カ月後には退職してしまい、定着までには至りません。27名を採用して22名が退職、残るのは5名という悲惨な事態も起こりました。
その後も社員の流出が止まらず、2017年には離職率は40%を超過しました。
1カ月に数名ずつが、職場を去る計算になります。
現場のマネジャーからは、「皆すぐに辞めてしまう、これでは教え損だ」と、嘆き声が上がるようになりました。私は退職予定者の連絡が届く月末近くになるたびに、憂鬱な気持ちに沈み込んでいました。
このままではいけない、でも何から手をつけたらいいのかわからない……。