第2の要因が、企業の分断である。事業部制の強化やプロフィットセンター化などは、当該部門が、人材を外に出すことを拒むだけではなく、人材に関する情報を(ややきつい言い方だが)秘匿するインセンティブを与える。下手に情報を公開して、部門内の優秀な人材が、全社規模で育成する人材に選ばれたら、その代わりを見つけるのが大変だ、ということである。また、育成も現場への委譲が強まるなかで、人材情報が部門間の壁を越えにくくなる。

分断化はさらに、現場からの人材情報流出を停滞させるとともに、人材一人ひとりについての時間をかけての多面的観察を難しくした。1つの部門内だけでキャリアを展開する可能性が高くなり、多様な視点からの情報が集まりにくくなる。また、種類の違う仕事への異動が難しくなるので、仕事内容が変化しにくく、いったんその人についての評価や見方が決まると、それを覆しにくくなる。

第3に人材情報を集め、蓄積する部署としての人事部が弱体化した。まず、人員削減などにより人事部による情報収集が難しくなった。また、もっと重要なのは現場が人事部門を受け入れなくなってきた。ややきつい言い方をすれば、人事部が煙たがられる存在になってきたのである。

もちろん、正確に言うと、一部の業種を除いて、昔も一人ひとりの能力や個性に関する情報を蓄積することに長けてはいなかったのかもしれない。単に、社員の名前を言えば経歴や家族構成、酒の好みまで諳んじることのできる名物人事部長がいただけなのかもしれない。でも、多くの企業で、(それなりの意味があるのだが)人事部門以外からの人事部長抜擢が増えてきた。

さらに、最後の要因が、個人情報保護の観点だ。もちろん、個人情報保護については好ましい側面もあるが、人事部が収集した情報を企業内で活用することが難しくなってきた。人事部門が個人に関する深い情報をもっていても、それを企業内での意思決定に使ううえで制限が出てきたのである。