戦略的であると誤解されている「人的資源」管理論

そして、この連鎖のなかで、最も重要な役割を演じるのが、現場のリーダーである。もちろん、いつの時代でもこうした個人に関する情報は現場の管理者が最も多く集めていたいし、集まっていたのである。現場のリーダーは、人材観察をする最も有利な立場にいたし、集めた質的情報が公式情報を補ってきた。

だが、それがいろんな理由で難しくなった。人事部の支援はなくなり、成果に追われて、部下の話を聞く余裕もなくなった。ノミニケーションは嫌われる。でも、それが現場における人のマネジメントの基本であることは今も変わらない。

さらに大変なのは、新たに必要になってきた情報は、基本的には、働く人が自らボランタリーに提供しなくてはならない性質のものであることだ。女性従業員に出産計画を聞いて、公式人事情報として集めるわけにはいかない。

そのため、リーダーに求められるのは、働く人が、キャリアプランやワークライフバランスに関する価値観、人生で大切にしているものなどを安心して上司とすり合わせできるような信頼関係と場づくりである。このとき、働く人の人生計画や家族状況は時間とともに変わることも考慮しなくてはならない。前はそんなこと言っていなかったじゃないか、ではだめなのである。

もちろん、キャリアカウンセリングなどを通じて、企業として従業員と企業との意識のすり合わせをする定期的な場も必要であるし、従業員が安心して情報開示ができる体制をつくることも必要だ。現場リーダーに期待をするなら、相応の支援をすることも大切であり、すべてを現場リーダーに押し付けるのも大きな問題だ。

今回も忙しい現場リーダーへのお願いになってしまい申し訳ないが、人材情報収集の端末は、現場リーダーなのである。その意味で、現場のリーダーには、仕事のエキスパートであると同時に、人のエキスパートであることが求められる。それは単に人事考課をうまく行うとか、目標が設定できるという人事的な側面だけではなく、人間観察力と、信頼構築力が土台である。

ここしばらく、企業では、働く人を職務能力の塊として見たり、成果を出す資源だと考えたりする「人的資源」管理論が盛んだった。効率を重んじる方向で人事制度が改革されたこともあり、働く人を、人として総合的に見る傾向が弱まったように思う。それを戦略的な人材マネジメントだと誤解していたのである。

いつの時代でも働く人についての丁寧な把握は、人材活用の出発点である。濃密な情報の獲得は、人材が多面性のある総合的な存在だという認識への回帰から始まる。

(平良 徹=図版作成)