経営陣との溝が深まり、会社を追放された

これを境にマスク氏とOpenAI経営陣のあいだに溝が深まり、やがてマスク氏はOpenAIを去った。表向きには、利益相反の回避とされている。米CNETによる当時の報道によると、OpenAIは、「TeslaがAIに引き続き注力するなかで、イーロンが将来的に対立する可能性を排除するため」だとコメントしている。

しかし水面下では、マスク氏とアルトマンCEOらとの軋轢は、もはや隠しがたいレベルにまで発展していた。米ニュースサイトのセマフォーは、利益相反による離脱だとマスク氏が社内のスピーチで説明した際、「ほとんどの従業員たちは信じなかった」と述べている。あからさまな亀裂は、従業員たちのあいだでも公然の秘密となっていたようだ。

記事はまた、関係者の証言として、「彼は長期にわたり、およそ10億ドルを寄付すると確約していた(すでに1億ドルの寄付を行っていた)が、彼の離脱後に支払いは停止された」と報じている。

ギズモードは今年3月、この報道を取り上げ、「イーロンがOpenAIを辞めたのは、それは自分をビッグ・ボスにさせてくれないからだと報じられている」と伝えた。へそを曲げて組織を去ったマスク氏だが、2023年になって後悔するとは思いも寄らなかったことだろう。

マスク氏追放がもたらした皮肉な結果

マスク氏の離脱後、あたらな資金源を必要としたOpenAIは、米Microsoftとの提携を強化した。米著名テックメディア・ヴァージによると、Microsoftは数十億ドルの資金を提供する見返りに、OpenAIの技術を独占的に使用するライセンスを確保した。

Microsoftは現在、検索エンジン「Bing(ビング)」を通じてChatGPTによる回答機能を試験提供し、AI検索の面でGoogleへの優位を確実にしつつある。

皮肉にもマスク氏が去った瞬間から、BingとChatGPTの連携への布石は打たれていたようだ。フォーブス誌は、マスク氏からの資金の途絶がMicrosoftとの提携に直接つながったと証明できる客観的証拠は不足しているとしつつも、氏の離脱がMicrosoftとの関係を深めたとの話は「もっともな解釈である」と評価している。

追放後に上がったChatGPT、買収後に下がったTwitter

1億ドルの私財をのみ込まれ、揚げ句に追放されたマスク氏にとって、現在のChatGPTの成功は目の上のこぶだろう。

氏は今年2月のツイートで、「OpenAIはGoogleを抑制するオープンソースかつ非営利の企業として立ち上げられた(だから私は『OpenAI』と命名した)が、今ではMicrosoftが支配するクローズドソースの利益追求企業になってしまった」と述べ、不満を爆発させた。

イーロン・マスク氏のツイートより
画像=イーロン・マスク氏のツイートより

このような愛憎劇を念頭に置けば、結局のところ、AIの開発停止を求めるマスク氏の姿勢は嫉妬から来るものにも思われる。フォーブス誌は、「技術の安全性を担保するためだとマスク氏は言うだろうが、もっと簡単に説明がつく」と指摘する。

「もはやOpenAIとの関係が絶たれたマスク氏は、ChatGPTに相当するものを自らがまだ手にしていないことに、不満を抱いているのだ」