Teslaの場合は画像処理および空間認識であり、ChatGPTの場合は文字ベースの言語モデルという違いはある。マスク氏がAI開発を推進しているとして、どのような分野を対象としたものかは定かでないが、いずれにせよ自社開発のAIが完成するまでの時間稼ぎとしてAIの開発停止を求めた可能性が指摘されている。

OpenAIは、高性能な画像生成AIの「DALL-E(ダリ)」もリリースしている。Teslaと共通する画像処理分野で直接競合し、マスク氏が牙城の切り崩しをもくろんでいる可能性もあるだろう。

2019年4月、2018年後半版スターシップの模型を手にするイーロン・マスク氏
2019年4月、2018年後半版スターシップの模型を手にするイーロン・マスク氏(写真=NORAD and USNORTHCOM Public Affairs/PD US Government/Wikimedia Commons

開発中止を求めながら、ひっそりと動き出す

インサイダーは4月11日、「時間稼ぎ」を裏付ける新たな情報を報じる。記事は、「イーロン・マスクは無数のGPUを購入し、その後Twitterで新しいジェネレーティブAIのプロジェクトを進めている」と指摘している。

ジェネレーティブAIとは、大量の既存のデータから法則を学習し、新たな文章や画像などを生成するAIを指す。まさにChatGPTやDALL-Eの分野だ。

同記事によると、マスク氏はAI開発に反対を表明したにもかかわらず、およそ1万個のGPUを調達したという。GPUはもともと画像処理に用いられる演算装置だが、AIの構築に重要な役割を果たす機械学習においても、高速な演算処理を実現する目的で活用される。

関係者の1人はインサイダーに対し、マスク氏がTwitter社内で、大規模言語モデル(LLM)の開発を推進していると明かした。現在プロジェクトは初期段階にあるという。

マスク氏はTwitterの財務状況に苦しみ、多くの従業員を解雇している。
4月、英BBCのインタビューに応じ、8000人弱いた従業員が現在では1500人にまで縮小したと説明した。

GPU自体は、必ずしも機械学習のみに使われるものではない。しかし資金不足の折、決して安価ではないGPUを1万個も発注した動きには、特定の目的があったとみるべきだろう。インサイダーは、AI用の高価なGPUは1個1万ドル(約130万円)を超えると述べている。水面下でAI開発を試みている可能性は大いに考えられそうだ。