“カネ余り”に乗じて取引を強化してきたが…

足許、世界経済の環境は急速に変化している。米メタなど大手IT企業の追加リストラや、米欧金融機関の経営不安の高まりはそれを象徴する。リーマンショック以降、日米欧などの主要中央銀行は利下げなどの金融緩和を強化した。

世界全体で“超低金利”と“カネ余り(過剰に流動性が存在している状況)”は続いた。その状況が未来永劫えいごう続くと楽観する主要投資家は増えた。多くの投資・投機資金は成長期待の高まった米国の有力IT先端企業やスタートアップ企業の株式や暗号資産(仮想通貨)などに流入した。それに目を付けた米欧などの金融機関は、関連企業との取引を強化した。

しかし、2021年春ごろから世界的に物価は上昇し、その後はインフレの高進が鮮明化した。米欧などの主要中銀は金融政策を急速に引き締め、世界的に金利は上昇した。それによって世界経済の環境は大きく変化している。金利上昇は企業や家計の利払い負担を増やし、資産価格を下押しする。足許、そうした変化に対応するプロセスが起きている。それが、SNSやサブスクリプションのビジネスモデルの行き詰まりや一部金融機関の破綻につながった。世界経済の先行きは一段と不透明になっている。

シリコンバレー銀行のオフィス=2023年3月14日、アリゾナ州テンピ
写真=AFP/時事通信フォト
シリコンバレー銀行のオフィス=2023年3月14日、アリゾナ州テンピ

コロナ禍で成長した“アマゾン・キラー”が急増

2008年9月にリーマンショックが発生してから2022年3月まで、事実上、世界全体は超低金利とカネ余りの環境に浸った。中央銀行は金融緩和を強化し、世界各国で短期から長期、超長期の金利は低下した。金融市場では資金のだぶつき感が高まった。より高い利得を求めて投資資金は、高い成長が期待される分野に流れ込む。

米国のIT先端企業の株や、暗号資産には多くの資金が流入した。世界の大手金融機関が発行した自己資本比率を引き上げるための特殊な債券にも、利回りが高い分、多くの資金が流入した。

コロナ禍の発生によって一時的に成長期待は低下した局面はあったが、感染の再拡大によって各国で都市封鎖や外出制限は長引いた。テレワークやネット通販、動画視聴、フードデリバリーなど世界経済のデジタル化は加速した。その結果、SNSやサブスクリプション型のビジネスモデルの優位性は一段と高まり、成長期待も押し上げられた。そうした環境変化に目を付ける企業家も増えた。一時、米国などで“アマゾン・キラー”などと呼ばれるIT系スタートアップ企業は急増した。