かつての“サクセス・ストーリー”は雲散霧消した

2022年11月、暗号資産分野では世界的な交換業者であったFTXが破綻した。それをきっかけに暗号資産取引業者の顧客資産の保全などに対する疑義は高まった。政策金利の引き上げによって企業の信用力への不安も高まり、ファンド勢は未公開株投資に一段と慎重になった。ITなどスタートアップ企業から投資資金も引き揚げられはじめた。

結果的に、カネ余り環境を足掛かりにして特別目的会社(SPAC)に買収され、その上で株式の新規公開を実現するというITスタートアップ企業の“サクセス・ストーリー”は雲散霧消したといえる。GAFAをはじめとするIT有力企業の成長ペースの鈍化も鮮明化した。

さらに、2023年3月上旬の議会証言にてFRBのパウエル議長は、2月から一転し、インフレ圧力が想定以上に強いとの見解を示した。世界的に、金利上昇への警戒感は急上昇した。資金繰り確保のための企業の預金取り崩しの急増、金利上昇による保有債券の価値毀損きそんを背景に、暗号資産関連企業との取引を強化した米シルバーゲート銀行は事業清算に追い込まれ、シグネチャー銀行は破綻した。

「過度なリスクテイク」という共通点

3月10日、ITスタートアップ企業などとの取引を強化したシリコンバレー銀行は破綻し、ファースト・リパブリック銀行の経営不安も高まった。3月19日、クレディ・スイスはUBSに救済買収された。

シリコンバレー全景
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共通するのは、過度なリスクテイクだ。特に、クレディ・スイスは商業銀行とカルチャーの異なる投資銀行分野で、無理をしてリスクテイクを続けた。ずさんなリスク管理体制も重なり、同行は自力で損失を吸収し、財務内容を健全化することが難しい状態に陥った。

一方、IT先端分野などでのリストラは一段と加速している。3月14日、メタは今後約2カ月で1万人程度の人員を追加で削減すると発表した。アマゾンも9000人を追加削減する。2023年、アップルのティム・クックCEOの報酬は前年の半分になる見通しだ。マイクロソフト、インテルなどもリストラを強化している。リーマンショック後の世界経済の緩やかな成長を支えたIT大手企業の成長鈍化は鮮明だ。