「この5年間、期待はいつもぬか喜びに終わった。後は奇跡を祈るしかない」と、キャロライン・ツァイは嘆く。「超大国と戦うことなど、私にはできない。悲しみには終わりがない」

一方、ハリソン・リーは「カナダ人の2人とグリナーの釈放には励まされた」と、期待を口にする。「政府に国民を奪還する力があることを証明したのだから。これが突破口になることを、私たちは祈っている。父の不在はあまりにも長い」

対話財団のカムはもともと実業家で、香港米商工会議所の会頭を務めた人物。中国の人権問題に介入したのは、1990年に天安門事件のデモ参加者を保護したのが最初だった。99年に財団を創設し、それ以来、数千人の政治犯の釈放を求めてきた。

40年分の公式および非公式の記録を基にした財団のデータベースには、反体制運動、宗教活動、社会運動など暴力を伴わない犯罪で逮捕された政治犯が記録されている。財団によれば、いま中国で投獄されている政治犯は7500人を超えるという。

政治や宗教上の理由で拘束された人の情報を、対話財団は定期的に更新している。中国で昨年、殺人罪で死刑判決を受けたアメリカ人シャディード・アブドゥルマティーンの事件も、注視している。

中国は自国民に対しても強圧的な手段を辞さず、相手が国外にいても容赦はない。昨年8月、当局はフロリダから上海の母親を訪ねていた謝芳(シエ・ファン)に出国を禁じた。上海でかつて独立系書店を経営し国家転覆罪に問われた夫の於淼(ユィ・ミアオ)をアメリカから帰国させ、出頭させるのが狙いだ。

1月、於は妻が中国公安部に宛てて書いた嘆願書を公開した。嘆願書で謝は、夫の立証されていない罪を根拠に政府は自分を人質にしたとほのめかした。於によれば、妻は嘆願書を公開すれば面倒なことになると地元当局に脅されたという。

だがカムの経験では、メディアへの露出はむしろ家族の味方だ。「騒ぎは大きければ大きいほどいい」と、対話財団の専門家は断言する。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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