不毛なコモディティ競争は避ける
――ビール類とRTDとを合算した発泡性低アルコール市場と捉えると、市場はそれほどへこんでいるわけではありません。値段からビール類からRTDへのユーザー流出は増えるのでは。
【松山】RTDにはキリン「氷結」をはじめ、強い商品はあります。しかし、お客さまのブランドへのロイヤルティーは低い。これは第3のビールも一緒です。コスパなど価格軸からいずれも選ばれ、RTDと第3のビールを行き来するお客さまはいて、その数は増えるかもしれない。
ただし、アサヒは独自の価値を持つRTDを商品化し、不毛なコモディティ競争とは一線を画したマーケ戦略で戦っていきます。
――20年からアサヒは「過度のシェア競争を避けるため」と、自社の販売数量の公表をやめてます。高い酒税を払っている消費者には、数量をきちんと公表する責任がメーカーにはあるのでは。
【松山】アサヒは量から価値へと変えています。KGI(重要目標達成指標)が箱数の時代は終わった。数量を公表すると、元の体質に揺り戻ってしまい風土改革はできなくなります。(卸への)押し込み販売など、本当はあってはならない。なので、公表はしません。
時代は変わっても、答えはいつも現場にある
――マーケ出身のトップとして、「スーパードライ」を超えるヒット商品をつくる意思はありますか。
【松山】87年といまとでは、市場も社会そのものも、そしてお客さまも違います。単一ブランドが多くを占めるのではなく、多様化している。「一本足打法」ではやっていけません。ただ「スーパードライ」にはまだ潜在力がある。クラフトビールなどでより多様化する海外市場で日本発グローバルブランドを目指していて、マザー市場の日本でしっかり伸ばしていくつもりです。小さくとも価値ある商品ならば、自社商品同士が競合するカニバリはあまり起こらないと考えます。
87年春、まだ経営が厳しかったなか樋口社長は夜になると酒屋や料飲店を無アポで訪問して廻っていました。店主と言葉を交わし、現場のにおいを嗅いでいた。その結果「新製品のスーパードライは大ヒットする」と皮膚感覚で判断されて、「マルエフ」から「スーパードライ」に生産の中心を瞬時に切り替えた。
これこそ経営であり、データを超えたマーケティングなんです。時代は変わっても、答えはいつも現場にある。実は私も、樋口さんにならい週に一回は現場に出ています。私は、アサヒをお客さまから愛され、社会から必要とされる会社にしていきたい。