優秀なリーダーはメンバーにどう接しているか。組織人事コンサルタントの小倉広さんは「できない上司の下でこそ人は育つ。最もできる上司とは、本当はできる上司であるのに、できないふりをして部下を頼れる上司である」という――。

※本稿は、小倉広『常勝チームの鬼100則』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

男性の背後にある黒板には一面にクエスチョンマーク
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最もできる上司は、なぜできないふりをするのか

あなたは「自分が一番成長できたな」と思えるのは何歳くらいのときでしょうか。そのときのリーダーはどのような人でしたでしょうか。

私がすぐに思い出すのは25歳、リクルート社で商品企画部門へ異動してから1年ちょっと経ったくらいのときでした。

それまでの商品企画を隅々まで知り尽くし、的確な指示命令を下してくれた敏腕上司に代わって、商品企画未経験で営業部門しか経験がなかった女性上司が新たに配属されました。彼女は私にいつもこう言ってくれました。

「ねえ小倉、こういうときどうするの? 私、営業しかやったことないからわからないのよ。どうしたらいいと思う?」

私は、頼りにされることが嬉しくて「こうしたらいいと思います。僕がやりましょうか?」

すると上司は「ほんと? さすが小倉さん、頼りになるじゃないですか!」と私を持ち上げてくれたのです。

その上司の下で仕事をしていた3年間、私は会社員人生で最も成長でき、そして仕事のおもしろさを知ることができたように思います。

できる上司の下で人は育たない。できない上司の下でこそ人は育つ。これは真理だと思います。そして、最もできる上司とは、本当はできる上司であるのに「能ある鷹は爪を隠す」で、できないふりをして部下を頼れる上司ではないか、と私は思うのです。

箱根駅伝優勝の常連校である青山学院大学陸上競技部・原晋監督もその1人です。

原監督は選手やマネジャーからの質問に対し、答えようと思えばすぐにでも答えられるのに、あえて答えないそうです。

たとえば選手が「足をけがしました……」と言ってきたときには「ふぅん。それで?」。選手が「練習に出られません」と続けると「それで?」と次を促すだけ。つまり、選手に自分で考えて答えを出させ、さらには決断することを求めるのです。

優秀なリーダーは答えを言わず、メンバーに考えさせます。そして決断を促します。そのときメンバーのモチベーションが上がり仕事を背負う責任感が生まれるのです。