各野党に人間関係力で組織をまとめられる人材はいるか
一方、立憲民主党はどうでしょうか。泉健太さんはリーダーですから党の看板役で、看板政策を国民にしっかりと伝える役割があります。
では、政治家グループをまとめる役割を誰が担うか、それがきわめて重要な課題です。それだけの人間関係力を持っている人が立憲民主党にいるのか。
泉さんのそばに党をまとめられる人材がいなければ、泉さんが両方の役を担わなければならず、党の看板としての仕事に専念できません。それでは政党としての推進力は生まれないでしょう。
同じことは他の野党にもいえるわけで、維新も国民民主党も残念ながら、人間関係力で組織をまとめる人材の顔があの人、この人というものが見えてきません。
日本維新の会の新代表の馬場伸幸さんは、国会議員をまとめる力には抜群に長けていますが、大阪維新の会も含めた組織全体の方向性を示す目標の提示力には弱い。
玉木さんも看板役と人をまとめる役の両方を担っているので、ずいぶんしんどいのではないでしょうか。
反対派の急先鋒をTPP対策委員会の委員長に指名
安倍政権下の自民党は、アメリカが離脱するなか、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定を締結しました。しかし、これに関しては、党のなかでも賛成派と反対派が拮抗しており、どちらかといえば賛成派が劣勢だったように記憶しています。
なぜならば、自民党には、TPPに強固に反対している農協の支持を受けている議員が多かったからです。彼らは「農林族」と呼ばれていました。ですから、このままでは、とても締結には至らないだろうというのが大方の見方でした。
実は、自民党が政権に復帰した12年、安倍さんが野党として臨んだ総選挙においても、TPPについての公約は明確にされませんでした。
自民党は「聖域なき関税撤廃ならば反対、聖域なき関税撤廃が前提でなければ賛成」と、あいまいな言い方で選挙を勝ち抜き、政権を奪取したのです。
そして政権奪取後、なんと、農林族の代表的存在であるTPP反対派の急先鋒、西川公也さんをTPP対策委員会の委員長として指名しました。西川さんが最終目標としている農林水産大臣の椅子が約束されていたという話も囁かれていました。
こうして、TPPの締結の責任者となった西川さんはTPP反対の主張を撤回せざるを得なくなりました。
農林族の重鎮である西川さんがまとめ役に就任したことで、反対派の議員たちも反対しにくくなります。僕は、このようなやり方に自民党のすごさを感じたものです。
しかも、賛成の決定に至る過程のなかで、自民党は反対派議員の顔をつぶさないための見事な仕掛けをしています。農協からの支援を受けている反対派の彼ら彼女らは、TPPに反対する姿勢を示さなければなりません。
ですから、彼ら彼女らは農協主催のTPP反対集会に出席すると、拳を振り上げて反対の意志を表明します。
農協関係者は、彼ら彼女らの姿に拍手喝采し、さらに応援の意を強くします。最終的には、賛成の決定がなされTPPが締結されてしまいましたが、反対してくれた議員たちに対する農協の評価が変わることはありませんでした。
反対派議員たちも、TPP締結に至ったすべての責任を西川さんに押しつけることで自らの責任をあいまいにすることができました。
西川さんは、ここで悪役に回ったことで、最終的に強く望んでいた農林大臣の椅子を手に入れました。自民党の底力はこうしたところで発揮されるのです。