今後のビジョンがない経営者たち

私は経営心理士、公認会計士として心理と数字の両面から経営コンサルティングを行っています。その中で、経営者に今後の経営の方向性を確認しています。

「今後はどうしていきたいですか?」

こう質問すると、多くの方は売り上げを伸ばしたいと話されます。

そこで、「売り上げを伸ばしてどうしたいですか?」と質問すると、社員を増やして事業を拡大したいと。ところが、「事業を拡大して何がしたいですか?」と質問すると、明確な答えが返ってこないことが少なくありません。

「何をしたいかは分からない。でも、規模を拡大したい」そう話す経営者は多いです。

「もう二度と部下は持ちたくない」

数年前、あるIT企業の経営者に今後の目標を聞くと、「売り上げ100億円を目指したい」と話されました。「なぜ100億円なんですか?」と聞くと、「周りの経営者仲間でも100億円を超えている人はあまりいないし、目標としてはちょうどいいかなと」と答えました。

その後、この方は持ち前のWebマーケティングの能力を発揮して売り上げを伸ばし、規模を拡大します。しかし、事業が拡大するにつれ、社内の人間関係が複雑になり、社員の管理に追われるようになりました。

夜のオフィスのデスクで疲れて顔を覆っているビジネスマン
写真=iStock.com/AnVr
※写真はイメージです

この方はITのスキルには長けているものの、対人関係が得意ではなかったため、社内の調整がうまくいかず、統率がとれなくなり、抵抗勢力となる人も出てきました。その結果、ストレスから出社ができない状態になります。しばらくして、その事業を売却されました。

今は別の会社を興し、一人で事業を行っています。そしてこう話されました。「前の会社では社内の人間関係に散々悩まされました。もう二度と部下は持ちたくない。事業は自分一人で広げられる範囲にしたいです」