経営者としての幸せとは何か

また、ある年配の元経営者の方はこんなことを話されました。

「自分の人生は事業に捧げてきた。売り上げを伸ばし、事業を拡大させ、富も名声も手に入れた。でも、決して幸せとは言えない。むしろ不幸だ。規模が大きくなるほど社員との関係は希薄になっていった。引退して以降、社員との関係もぷっつり切れた。

稼ぐために、やりたくないことも随分やってきた。楽しい人生だったかというと決してそんなことはない。むしろ辛いことの連続だった。それでも会社を大きくしようと我慢してきた。

でも、富も名声も、死んだらあの世に持っていけない。今になってそんなことに気付きましたよ。自分はこれまでいったい何をやっていたんだろうと思う。私はね、一番間違えてはいけないことを間違えてしまったんですよ。人生の時間の使い方をね」

お二方とも、世間的には成功者と呼ばれるような状況を築いた方です。にもかかわらず、「何のために経営をするのか」「経営を通じて何をしたいのか」という本来の自分の価値観を置き去りにして、世間の価値観に基づいて規模を拡大した結果、手に入れた状況を深く後悔されていました。

経営心理士としてこういった経営者のご相談を複数受けてきましたが、その経験から、経営をするうえでは「経営者としての幸せの定義」を明確にすることが重要だと感じています。

不幸になる経営者の特徴

自分は経営者としてどのような人生を送ることができたら心から幸せだったと言えるのか。これはある意味、経営における最も重要な意思決定基準だと言えます。

この点を明確にし、自らの価値観に沿った経営をしないと、次第に経営に対する意欲は失われ、人生の後悔につながります。

しかし、その意思決定基準を明確にしないまま、世間の価値観を自分の価値観だと思い込み、盲目的に売り上げを追いかけ、事業を拡大しようとする。そういう経営者があまりに多いです。