正当性に疑義が生まれた「事件」
こうした市民的不服従の正当化という観点から見た場合、22年10月31日、ドイツで発生した自転車事故は、運動の大きなターニングポイントとなった。同日早朝、ベルリン市内で大型車両と自転車の女性の交通事故が発生した。しかし救急隊の車両が、LGの道路封鎖活動による交通渋滞に巻き込まれて立ち往生。女性は脳死状態になり、その後完全に死亡した。LGは当初、自分たちは必ず緊急車両通行用のスペースを空けていたと主張したが、結局、実質的な謝罪に追い込まれた。
謝罪の背景には、ドイツ国内での批判の高まりがあった。LGが大都市での慢性的な大渋滞を意図的に引き起こすことは、警察・消防の緊急車両の遅延を招き、間接的・潜在的に市民の命を危険にさらしている、それゆえLGの活動は、非暴力という市民的不服従の要件を実質的に満たしていない、という批判である。
この不満は独紙『アウスブルガー・アルゲマイネ』と調査会社CIVEYが、11月4日から同7日にかけて行った、LGに対する世論調査でも顕著となった。「LGによる気候に関するプロテスト(例:道路封鎖)をどう評価しますか」という質問項目に対しては、「明白に正しい」と「どちらかといえば正しい」という回答が14%だったのに対し、「明白に間違っている」、「どちらかといえば間違っている」は81%であった(「決定せず」が5%)。
一方で、同様の不幸な偶発事態が、彼らの活動をさらに過激化させる可能性もある。高所に登って横断幕を掲げようとした活動家が治安部隊と押し問答するなかで転落したり、渋滞にいら立ったドライバーが道路に座り込む活動家を威嚇しようとして、誤って接触してしまったりしたらどうなるか。
こうした不幸に見舞われた活動家の仲間は、これらの事案を偶発事とはみなさず、自分たちへの意図的な攻撃と感じるだろう。それは一部のメンバーが、市民的不服従の「非暴力」の要件を捨てる契機にもなりかねない。(後編に続く)