もっと過激な活動に走った団体もあった
JSOやLGらの21世紀のラディカル環境活動家にとっても、この「市民的不服従」の思想は活動の基盤の一つとなっている。2022年11月11日、JSOは次のようにツイートしている。「第2次世界大戦中にアンネ・フランクを匿った人々は犯罪者だった。(中略)フランスのレジスタンスもそうだった。(中略)善き人々は悪法を破るのである」。
もちろん、JSOやLGが標榜する「非暴力」というスタンスは嘘だ、彼らの一連の行動はれっきとした暴力行為ではないか、という見方もある。ただ、ラディカル環境運動・動物解放運動の歴史をひもとけば、より過激な事例、団体があるのも事実なのである。
例えば日本の調査捕鯨船との激しい衝突で知られる「シー・シェパード」は、1979年にリスボンで捕鯨船シエラ号を沈没させ、1986年にはレイキャビクの捕鯨施設を徹底的に破壊した。1990年代以降、盛んに活動した「地球解放戦線(Earth Liberation Front、ELF)」は建築現場やリゾート施設への放火を、また「動物解放戦線(Animal Liberation Front、ALF)」は、大学動物実験施設への侵入、破壊をしばしば実行したのである。
こうした「ハードコア」な事例と比べれば、JSOやLGの活動は、非暴力を原則とする市民的不服従の枠内で行われているのだ、という当事者の弁明にも一定の理はある。ガラスで保護されていない絵画への修復不可能な攻撃や、美術館そのものに対する不可逆的で決定的な破壊(たとえば放火や爆破)、警備員への暴行、脅迫などには、彼らは至っていないからである。
市民的不服従が正当化されるための要件
一方で、市民的不服従が正当化されるためには、いくつかの要件が必要となる。まず、上で述べた活動の「非暴力」性。次に、法や制度が長年の不正の積み重ねによって機能しなくなっており、通常の民主主義的方法を使うことができない状況にあることだ。逆に言えば、他の道が閉ざされていないうちは、安易に市民的不服従は使用できないことになる。
さらに、市民的不服従によって発生する善が、そうした行為をせずに放置した場合に発生する悪、あるいはその市民的不服従行為から派生する悪を上回ることも要件となるだろうし、市民的不服従を実践するにあたって直接的・間接的に発生する権利の侵害や混乱は、可能な限り最小の規模に抑えることも求められるだろう。