フランス征服の戦利品としてイギリスが接収

イギリス・ロンドンの中心部に構える、大英博物館。エジプトのミイラや死者の書、イースター島のモアイ像など、収蔵数は約800万点といわれ、世界最大規模のコレクションを誇る。だが、そのコレクションが論争の火種になっている。

世界中からの略奪品を無数に含むこれら収蔵品は、本当にイギリスの所有物なのだろうか? 目下の話題は、展示の目玉のひとつであるロゼッタストーンだ。

高さ1メートル少々のこの石版は、サイズ以上の歴史的価値を有する。3つの言語で同じ内容が併記されていたことから、ヒエログリフをはじめとする古代エジプト言語の解読作業に劇的な進歩をもたらした。いまでも暗号解読や翻訳の代名詞だ。

ロンドンの大英博物館にあるロゼッタストーン
ロンドンの大英博物館にあるロゼッタストーン(写真=Adrian Grycuk/CC-BY-SA-3.0-PL/Wikimedia Commons

石版は18世紀終盤、ナポレオンの遠征軍がナイル川河口で発見し、フランスの手に渡った。その後、フランス征服の戦利品としてイギリスが接収し、現在でも大英博物館に展示されている。

かつては戦勝者の勝利の証として、文化財の持ち出しがごく当たり前のように行われてきた。だが、近年では元来の所有地に戻すべきだとの議論が高まっており、ロゼッタストーンもエジプトに返還されるべきだとの論調が高まっている。

しかし、返還をめぐる状況は複雑だ。専門家は、ロゼッタストーンの返還が実現すればそれを皮切りに、「パンドラの箱」が開くと指摘する。収蔵品の大放出へとなだれ込むシナリオが危惧されている。