フランス・マクロン大統領の演説から始まった

きっかけは2017年、フランスのエマニュエル・マクロン大統領による演説だった。

返還の是非をめぐる議論が盛り上がるなか、マクロン氏はアフリカの文化財が「私的コレクションやヨーロッパの博物館のみに留まるべきではない」と明言。これらの文化財を「ダカール、ラゴス、コトヌーで見たい」と表明した。

これを受けフランスでは、専門家らによる検討委員会が結成。アフリカ美術品の返還に関する具体的な議論が動き出した。影響はフランス国内に留まらず、ヨーロッパの広い地域で返還に関する議論が加速する。それまで返還を拒んでいたヨーロッパの博物館・美術館らに激震が走った。

ニューヨーク・タイムズ紙のサージ・シュメマン編集委員は同紙の論説を通じ、返還には双方に利があるとの見解を示している。

氏は、略奪品は「ヨーロッパにとっては植民地時代の暗部」であり、「アメリカにとっては人種主義と奴隷制度の遺産」にすぎないと述べている。一方、略奪された国にとっては「国家のアイデンティティと文化の問題」であるとの指摘だ。

ロンドンの大英博物館
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中国の影響力を排除したい政治的な思惑

同記事はまた、対中国の観点でも欧米はアフリカとの関係を見直すべき時に来ているとみる。古くはイギリスの植民地が目立ったアフリカだが、現在同地では中国が経済的影響力の拡大をねらっている。このような状況下で欧米諸国は、略奪美術品の返還を通じ、現地政府の信頼を獲得したい動機があるという。

以来、返還をめぐる賛否の議論が続いている。ただし基本的には、返還の要請があったものについては原則としてもとある場所へと返すべきである、との考え方が拡大してきた。

近年の例に限っても、複数の貴重な文化財が欧米からアフリカ諸国や中東などに返還されている。米CNNは1月、繊細な細工が施された「象牙のスプーン」がアメリカからパレスチナに返還されたと報じている。国際的な巨額の盗品取引への関与が疑われるアメリカ人実業家から押収されたものだった。

捜査当局によるとこの実業家は、12の犯罪ネットワークを通じ、世界11の国から密輸された品々を所持していたという。計7000万ドル(約90億円)の盗品を売買した疑いがかけられている。

欧米の博物館・美術館が責任を問われる事態に

米スミソニアン誌は同じく1月、米ヒューストンからエジプトへ木棺が返還されたと報じている。古美術の密輸を手がける犯罪シンジケートによって15年前に盗み出され、ドイツ経由でアメリカの個人収集家が入手していた。