なぜ芸術作品がターゲットになったのか
まず当然の疑問として浮かんでくるのが、なぜ『ひまわり』や『積みわら』にスープや粥を掛けることが、気候変動への警鐘になるのか、という問題だ。
あえて彼らの行動に寄り添うならば、地球も一点もの、芸術作品も一点ものなのに、なぜわれわれは地球の危機を無視し、芸術作品の汚損には大騒ぎするのか、というレトリックが見いだせる。『積みわら』にマッシュポテト攻撃をしたLGは、次のようにTwitterに投稿した。「なぜ多くの人々は、われわれの世界そのものが破壊されることよりも、自然の模写の一つが損なわれることのほうを心配するのか?」(@AufstandLastGen、10月24日)。
あるいはもっとシニカルな分析、すなわち単に世間の目を引くための手段だという見方も成り立つ。この場合、気候変動に世間の目を引けさえすれば、ターゲットは芸術作品以外、つまり道路封鎖でも、F1でも、サッカーでも、高級ブティックの店舗でも、コンサート妨害でもよい(実際、これらはすべてJSOやLGの攻撃対象になった)。
日本ではあまり報道されなかったが、昨年11月のJSOによる抗議活動の「主戦場」は、美術館よりむしろ道路封鎖、特にロンドンの環状高速線であるM25号線の封鎖だった(これは連日大渋滞を引き起こし、イギリス国内で注目を集めた)。
「私はそれが天才的なものだと気がつきました」
JSOのメル・キャリントンは芸術作品をターゲットとする手法の発見について、次のように述べている。「私たちは道路に座りこんでみたり、石油ターミナルを封鎖しようとしたりしました。しかし事実上、ほとんど報道されませんでした。一方、極めて盛んに報道されたのは、傑作を覆っているガラス片にトマトスープを投げつけたことだったのです」。
一方、LGの窓口の一人であるカルラ・ヒンリクスは、JSOの『ひまわり』攻撃の第一報を聞いたときの印象を、「私はそれが天才的なものだと気がつきました。(中略)人々はショックを受けます。そして彼らがものごとに耳を傾け始める、その窓が開くのです」と述べ、JSOの方法からの影響を示唆した。
芸術作品攻撃は、道路封鎖などに比べてはるかに少ない人数で済む。実行にあたっての道具や材料の調達も簡単で低リスクで、逮捕者も少人数で済む。それにもかかわらず社会的影響力は大きいので、致命的な絵画の汚損を起こさぬよう保護された作品の選定にさえ注意すれば、耳目を集める方法として非常にコスト・パフォーマンスが良いわけである。