※本稿は、橋爪大三郎『日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
マルチ商法は本人が儲けるつもりで参加する
いわゆる霊感商法は、マルチ商法と違って、もっと悪質で組織的な犯罪である。
商取引は、売り手、買い手の双方の合意(契約)によって成立する。その際、商品についての情報が正しく伝えられていること、合意(契約)が任意になされること、などの条件が満たされている必要がある。相手を騙せば、詐欺になる。
マルチ商法は、ネズミ講と類似していて、新規の加入者を募り、ネットワークが拡大していくと、早くに加入していたものが配当を受け取り、儲かる仕組みとなっている。ネズミ講はただ出資するのだが、マルチ商法の場合は、商品を買い取る商取引の外見をとっている。
マルチ商法は、取引きの仕組みの説明を受け、本人が合意して、儲けるつもりで参加する。結果的に儲からず、大部分のひとは被害に遭う。
「不幸から逃れられる」と騙す霊感商法
霊感商法の場合は、ネットワークは存在せず、ターゲットとされた顧客が、本来なら買わなくてもいい商品をつぎつぎ高額で買わされてしまう、というやり方である。
なぜ買わされるのか。統一教会(*)の信徒がチームをつくって、顧客の心理をたくみに操り、どうしても商品を買わなければならない心理状態にさせてしまうのである。
顧客は、統一教会の信仰を持つわけでも、その世界観をシェアするわけでもない。売り手が統一教会であることを、そもそも知らないかもしれない。しかし、先祖の祟りだとか、本人が理解できる不幸の原因を吹き込まれて、それを逃れられるならばと、商品を買う。あるいみ合理的に、非合理な行動をしているのである。
対する売り手のチームは、相手を騙しているという一致した認識を持っている。そして、統一教会の信仰を共有している。統一教会は資金が必要だ。資金を集めるのは正しいことだ。だから教団の任務として、また、信仰を持つ者の義務として、チームとして行動する。そのためのマニュアルもある。売り手のチームの人びとも、合理的に行動している。
この組み合わせが霊感商法だ。
霊感商法は、マルチ商法と違って、どこまでも自分で拡大していくメカニズムを持っていない。代わりに、つぎつぎ獲物となる顧客を見つけなければならない。反社会的な販売方法なので、社会問題となる。そして、早晩、行き詰まる。
*正式名は世界基督教統一神霊協会。いまは、世界平和統一家庭連合と名前を変えている。新聞などは「旧統一教会」と表記するが、本稿では歴史を尊重して、統一教会(Unification Church)と呼ぶ