うまくいく理由をひと言で表現してみる
「ネガティビティバイアス」や「悲観主義バイアス」の働きをやわらげたいとき、もう1つ役立つ対処法があります。
それは、うまくいく理由を抽象的な表現で書いてみることです。
具体的にどんなふうに書くといいかについて解説する前に、オハイオ州立大学の研究で行なわれた興味深い実験を紹介したいと思います。
この実験では、学生にスピーチをしてもらい、全員を「素晴らしい!」とほめました。そして、その後、2つのグループに分けて、以下の課題を出しました。
①どのようにプレゼンを組み立てたのか詳細を説明してもらう
②「わたしは、スピーチをうまくやりとげた。なぜなら( )だからだ」という文章の空欄に入る言葉を埋めてもらう
そして、それぞれのグループでもう一度スピーチを行なってもらい、どのくらい自信をもって臨のぞめたかを調べました。
その結果、なんと②のグループのほうがより自信をもって臨めたうえ、スピーチもうまくなったのです。一見すると、作業プロセスを詳細に考えた①のグループのほうが、自信をもてそうです。しかし、実際は②の学生たちのスピーチの質のほうが向上しました。
わたしたちは、プラスになりたいとき、詳細を考えるよりも、あいまいに考えたほうが、自分の能力をプラスにとらえやすく、意識が楽観的になりやすくなるようです。
これを専門用語で「直接的抽象化(Directed abstraction)」と言います。つまり、うまくいく理由をあいまいに考えたほうが楽観的になりやすくなることを意味しています(※10)。
この方法は日常生活にも応用できます。
たとえば、「100の『いいね』がもらえたのは、『○○だからできました』」と考えて書き出してみる。あるいは、「仕事がうまくいったのは、自分が『○○』だから」と書いてみる。
このようにあいまいに考えて書き出してみると、不思議とあなたのもっている能力のポジティブな面に注意が向きやすくなります。
また、こうした書く習慣を身につけていくうちに、思考のクセも改善される効果が期待できます。書くというアウトプットは、脳にそれだけ負荷をかけることになるため、続けることで思考を変化させることにつながったりもするからです。
※1 ネガティビティバイアス P. Rozin & E.B. Royzman,“Negativity bias, negativity dominance, and contagion”, Personality and Social Psychology Review, 2001, Vol.5, p.296-320
※2 マイナス(リスクなど)にフォーカスすることの大切さ J. T. Cacioppo,& G.G. Berntson,“The affect system: Architecture and operating characteristics”, Current directions in psychological science, 1999, Vol.8, p.133-137/A.Vaich, et.al.,“Not all emotions are created equal: the negativity bias in social-emotional development”, Psychological bulletin, 2008, Vol. 134, p.383
※3 明るいニュースより暗いニュースが印象に残り広がりやすい S. Stuart, et.al.,“Cross-national evidence of a negativity bias in psychophysiological reaction to news”, Proceedings of the National Academy of Sciences, 2019, Vol.166, p.18888-18892/K. Bebbington, et.al.,“The sky is falling: evidence of a negativity bias in the social transmission of information”, Evolution and Human Behavior, 2017, Vol. 38, p.92-101
※4 ネガティビティバイアスが高いと政治で保守派になりやすい J. R. Hibbing, et.al.,“Differences in negativity bias underlie variations in political ideology”, Behavioral and brain sciences, 2014, Vol. 37, p.297-307
※5 悲観主義バイアス(女性に多い傾向)Mansour, S.B. et.al.“Is There a ‘Pessimistic’ Bias in Individual Beliefs? Evidence from a Simple Survey”, Theor. Decis., 2006, Vol. 61, p.345-362
※6 西洋人は日本人と比べて悲観主義バイアスが少ない Chang, EC. Et.al.,“Cultural variations in optimistic and pessimistic bias: Do Easterners really expect the worst and Westerners really expect the best when predicting future life events?” Journal of Personality and Social Psychology, 2001, Vol.81(3), p.476
※7 楽観主義バイアス Sharot T. et.al.“Neural mechanisms mediating optimism bias”, Nature, 2007, Vol.450(7166), p.102-5
※8 コントロールできる状況は楽観主義バイアスを高める G. Menon, et.al.“Biases in social comparisons: Optimism or pessimism?”, Organizational Behavior and Human Decision Processes, 2009, Vol.108, p.39-52
※9 コントロールできると思うだけでも楽観主義バイアスが強くなる A. Bracha & D.J. Brown,“Affective decision making: A theory of optimism bias”, Games and Economic Behavior, 2012, Vol.75, p.6780
※10 直接的抽象化 Zunick,PV.Et.al.“Directed abstraction: Encouraging broad, personal generalizations following a success experience”, Journal of Personality and Social Psychology, 2015, Vol.109(1), p.1-19