よいニュースよりも悪いニュースのほうが拡散されやすい
また、明るいニュースよりも暗いニュースのほうが印象に残ったり、よい話よりも悪い話のほうが広まりやすいということがありますが、これらはすべて「ネガティビティバイアス」のしわざです(※3)。
たとえば、2020年にコロナウイルスが日本に広がったとき、突然、「東京が封鎖される」というメッセージが知り合いから届きました。
信頼している人だったので、わたしも思わずソースを確認せずに、すぐに大切な人だけに伝えてしまいましたが、これがたとえば「東京にコロナウイルスを撲滅するための新しいシステムが導入された」というニュースだったら、人に伝えるでしょうか?
これはSNSも同じで、よいニュースよりも悪いニュースのほうが拡散されやすいということがわかっています。そして、それが本書の2時限目に紹介した「要約効果」によって、悪い部分が人を介してより増幅されるため、怒りや負の感情が広まっていくのです。
そういった意味で、SNSの情報は注意して冷静に見ることが大切です。また、「ネガティビティバイアス」が強い人ほど、政治の世界では保守派になりやすいことも報告されています(※4)。
そして、この「ネガティビティバイアス」をもとに「作話」までしてしまうのが、「悲観主義バイアス(Pessimism bias)」です(※5)。
この認知バイアスは、自分の未来の可能性を過小評価して、過去のマイナスな出来事を過剰評価(大きく)する妄想を、脳のなかにつくり出します。
本来は「やってみたら、よくなるかもしれない」
たとえば、失敗する可能性を過大評価して、新しいことにチャレンジしない。宝くじを「買ってもどうせ当たらない。お金がもったいない」と思って買わない。
明らかにブラックな環境の職場にいて毎日つらいのに「転職しても、どうせ変わらないだろう」とあきらめてしまう……これらは「悲観主義バイアス」が強い人の傾向です。
本来は「やってみないとわからない」「やってみたら、よくなるかもしれない」のに、悲観的に将来や未来を想像してしまいます。
また「過去にこういうダメなことがあったし、いまもうまくいっていないし、この先もきっと変わらないだろう」と、過去のマイナスな情報を大きくとらえて、そのままマイナスを未来にも投影することで、自分の行動にブレーキをかけてしまうのも、「悲観主義バイアス」が強い人たちの特徴です。
ちなみに、西洋人(ヨーロッパ系アメリカ人)は日本人と比べて、「悲観主義バイアス」が少なく、自分に起こるポジティブな出来事を期待する傾向が強いことも報告されています(※6)。
西洋では、まわりを気にせず個人を大切にする個人主義が文化としてありますが、それは「悲観主義バイアス」が少ないためだとも言われています。認知バイアスは文化すらつくるのです。
また、「悲観主義バイアス」は女性に多いことも報告されています(※5)。