無関心でいることのブーメランは返ってくる
――今回の『覇王の轍』では、鉄道行政の闇や硬直化した組織のありように切り込みました。『震える牛』では食品偽装、『ガラパゴス』では派遣労働、『アンダークラス』では外国人労働者など、相場さんは社会問題を題材にした小説を発表してきましたが、共通するテーマはあるのですか?
どうでしょうか……。ぼく自身も鉄道に関心がなかったので気に留めていませんでしたが、調べれば調べるほど、一体誰のための延伸計画なのだろうと感じました。これまで話したように新幹線という巨大インフラのコストをいずれは国民が負担する日がくるという危機感をたくさんの人に共有してもらえれば、と『覇王の轍』を執筆しました。
そう考えると社会をめぐる様々な問題に目を向けずに無関心でいるとやがてブーメランとなって自分たちに返ってくるよ、という警鐘を込めて小説を書いている気がします。そこがぼくの小説に通底するメッセージなのかもしれません。
50年前の計画をそのまま続けていてはダメ
例えば先日ドラマ化された『ガラパゴス』では非正規雇用について書きました。
単行本を刊行した2016年当時、すでに正規雇用のタガが外れてしまっていた。規制緩和の結果、いまや非正規雇用が4割に迫っている。つまり国民の4割が低賃金労働を強いられているわけです。加えていまは、ヒドいインフレでしょう。給料が増えないのに物価だけはどんどん上がっていく。
ぼくも家事をするので食料品の値上がりは日々実感しています。予想外の円安も生活苦に拍車をかけている。ぼく自身も数年前から機会があるたび日本は貧しくなったと繰り返し語ってきました。でも正直に言えば、ここまでのスピードでヒドくなるとは想像もしていなかった。
――日本列島改造論が発表された50年前には現在の状況は想像できなかったでしょうね。
そう思います。50年間で日本は大きく変わりました。少子高齢化が進んで、国全体が貧しくなった。同時に移動手段が多様化して新幹線ばかりに頼る必要がなくなった。日本は変化しているのに、50年前の計画をそのまま進めるような社会でいいのか、たくさんの人に考えるきっかけにしてもらいたかったのです。