「余った予算は国庫に戻す」という発想はない

――新幹線の延伸計画に疑問を呈する声はないのですか?

取材した限り、関係者からそうした話はでてきませんでした。その理由は、利権の恩恵にあずかる組織の保身です。あらかじめ決まった計画や組織の方針に対して、異議を唱えることができる雰囲気ではないのでしょう。

通信社時代、官庁を取材していて、こんな例え話を聞いた経験があります。

防衛省で年度末に予算が余ったとします。予算を使い切るためだけに、官僚がカバンをひとつ持って自衛隊機で青森の三沢基地に行き、何もせずに帰ってくるというんです。ぼくが「余った予算は国庫に戻せばいいのではないか」と聞くと「そんなことしたら、来年度の予算が削られてしまうじゃないか」という答えが返ってきました。

新幹線の延伸計画が50年も見直されずに進んでいる根底にも同じ発想があるはずです。

すでに新幹線建設の予算がある。新幹線の駅を誘致できれば、政治家も選挙区での評価が上がる。地元の建設業者にも金が落ちる……。複雑な利権構造ができあがっているから、計画を見直そうという人は現れない。

相場英雄さん
撮影=藤岡雅樹
相場英雄さん

「一度動き出したら止まらない国」を象徴している

見直しについて例に挙げるとすれば、東日本大震災の被災地です。

3・11では鉄道も被災しました。いま気仙沼市と大船渡市を結ぶ大船渡線を復旧する代わりにバスを走らせています。鉄道を復旧させたとしても採算が見込めないから、公共のインフラを維持するためによりコストがかからないバスを運行している。

なぜそれが新幹線でできないのか。いまのままでは近い将来に赤字が膨らんで立ちゆかなくなる。その現実に直面して、ようやく50年前から続く無謀な計画に多くの人が気づくはず。新幹線の延伸計画は、日本は動き出したら止まらない国という象徴なのかもしれません。

――一昨年の東京オリンピックも、あれだけ反対の声が上がったのに結局は開催されました。

開催したけれど赤字になった。そのツケを払うのは都民です。

まさに新幹線も同じ構造です。これから北海道新幹線が札幌まで延びたときに東京や仙台から札幌まで新幹線で行く人がどれくらいいるのか疑問です。だって、格安チケットで飛行機に乗った方が、安いし、早いわけですから。