経済的成功を背景に、かさに懸かる態度でふるまうウォールストリートの成功者を思わせる若者。憧れの存在であったにもかかわらず、彼をテレビで笑い者にするセレブな司会者。背景にあるのは、経済格差が広がり、1%の富裕層に富が集中する現実だ。99%のアメリカの若者がジョーカーに共感したように、映画の中でも、メディアを通じて見たジョーカーの姿に、人々は共鳴し、暴動を起こす。

ウォール街で新聞を読むビジネスマン
写真=iStock.com/franckreporter
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そのシーンで流れたのが、サイケデリック・ロックの名曲、クリームの「ホワイトルーム」。

この曲が発表された1968年はキング牧師暗殺、ワシントン暴動、テト攻勢、反戦運動などが巻き起こり、「動乱の68年」と呼ばれた年だ。キング牧師の突然の死や出口の見えないベトナム戦争に、人々は激しい怒りの声を上げた。

カウンターカルチャーを痛烈に批判した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

そして、『ジョーカー』と同じ2019年、「ハリウッドの昔話」でも、60年代後半のサブカルチャーが取り上げられた。クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(※)。「ワンス・アポン・ア・タイム」とは日本語にすれば「昔々……」というお話の始まりに使うフレーズである。

※『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(Once Upon a Time in…Hollywood)2019年 監督:クエンティン・タランティーノ▼1966年、かつて西部劇で活躍したスター俳優リック・ダルトンは、今はすっかり落ち目。スタントマンであるクリフ・ブースもまた仕事はなく、リックの世話係をしている。そんなリックの家の隣に、新進気鋭の映画監督ロマン・ポランスキーと妻で女優のシャロン・テートが引っ越してくる。

この作品に登場するのは60年代カウンターカルチャーを代表するヒッピーだ。監督のクエンティン・タランティーノは、過去のB級映画や日本映画からの引用を得意とし、オタク的な感性を持つことで知られる。

作品の舞台は1969年のハリウッド。主人公は、50年代に西部劇で活躍した落ち目の俳優リック・ダルトンとその友人のスタントマンであるクリフ・ブースだ。一方、ヒッピーたちは、使われなくなった西部劇のスタジオで共同生活を送り、カルト集団を形成している。ヒッピーたちはある勘違いから、リックの家に入り込み、そこでタランティーノお得意の陰惨なスプラッターが繰り広げられる。

モデルとなったのは、60年代に実在した、チャールズ・マンソンとそのファミリーと呼ばれるカルト集団だ。彼らは、1969年に女優シャロン・テートとその友人を殺害し、カウンターカルチャーに暗い影を落とした。映画で描かれるのは、その事件が起きなかった虚構の過去だ。そこでヒッピーたちは、罵倒され叩きのめされる。50年代的価値観への反抗として生まれたムーブメントを強烈に揶揄するような描写になっている。そこに込められたものは何だろうか。