アメリカ人にとっての「カルト、キリスト教、陰謀論」――カート・アンダーセン
「ニューヨーク・マガジン」元編集長で、アメリカを精神分析したベストセラー『ファンタジー・ランド:狂気と幻想のアメリカ500年史』の著者でもあるカート・アンダーセンは、この作品からアメリカ人が持っている「陰謀論」的考え方を指摘する。
「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の主人公がマカロニ・ウエスタンに出演している中年の俳優だという点は興味深いです。あの時点では西部劇は斜陽の時代にあったからです。60年代後半、伝統的な西部劇は、ヒッピー等のカウンターカルチャーのために人気を失いかけていました。映画はその時代を描いていて、時代遅れの俳優がお金を稼ぐためだけにイタリアで西部劇に出演するのです。映画は、西部劇が時代遅れだと宣告されたことを描いているのです。
マンソン・ファミリーは単なるカルトでしたが、話はそれだけで終わりませんでした。1960年代にはキリスト教の中で、魔法や超自然現象を信じるそれまでとは異なる方向性の宗派が爆発的に増えます。それらはカルト的なもので、幻覚や妄想と極端な興奮への欲求がありました。そこではキリスト教と陰謀論が重なり合います。
どちらも同じ種類の極端な個人主義と主観的考え方を持ち、『自分が真実だと感じることが真実なのだ』ということです。アメリカのキリスト教で重要なことは、この国を作った人たちが実際に極端な教派だったことです。つまり彼らは最初から宗教的過激派だったのです。だからこそ彼らはヨーロッパで全てを捨てて、新しい生活を始めるべく見知らぬ土地に来たのです。ちょうどヒッピー・カルトが自分たちの生活の土地を求めて砂漠に行ったように」
「自分が感じて考えていることが真実」という組み込まれた信念
「それが私たち、アメリカ人です。信心深いか否かにかかわらず、アメリカ人なら『自分が感じて考えていることが真実だ。誰も何が真実かを自分に強要することはできない。何が真実かは自分が知っている』という初期のプロテスタントの信念がいくらか組み込まれているのだと思います。それは陰謀論的考え方に通じます。
陰謀論はいつの時代にも、どこの国にもありました。ですが、ジョン・F・ケネディ暗殺事件を機に、アメリカで陰謀論は一気に広まりました。暗殺者の正体に関してあらゆる陰謀論が出てきました。『私たちは全てを知っているわけではない。より大きな力による陰謀があるはずだ』というある種の不穏なものの考え方が、1960年代と70年代の様々な考え方の変化と相まって広がったのです。
そして今、50年後になって、Qアノン(※)という形で荒唐無稽な陰謀論が出てきました。インターネットというとてつもないインフラにより、Qアノンやその他のバカげたものの信者は洗脳され、これまでにないほど簡単に仲間を見つけたり勧誘したりできています」
※Qアノン 匿名掲示板で「Q」を名乗る人物が投稿した「世界は小児性愛者の秘密結社に支配されている」という陰謀論を信じる人たち。彼らによれば、その秘密結社であるディープステートは民主党の政治家やハリウッドのセレブによって構成されているとする。ドナルド・トランプの支持層でもある。