既定路線の年金給付抑制

年金保険の基本的な目的は、長寿化により個人の貯蓄が枯渇する「長生きのリスク」への対応だ。この終身年金を、日本のように平均寿命の長い国で維持するためのリスクは高まっている。

しかし、年金保険料を高齢者が増加するごとに今後も持続的に引き上げ続けることは、国民(特に現役世代の社会保険料や税金など)や経済に大きな負担を課すことになる。このため2004年度の年金改正時に、保険料率の上限を18.3%に固定する決定がなされた。その保険料の範囲内での財源で今後、持続的に増える年金給付額を賄わなければならない。

ここで給付抑制のために、「毎年の給付額の自動的な減額(マクロ経済スライド)」という厳しい手段が採用された。2023年度にも毎月の年金額が0.6%減額されるが、これは平均寿命が延び続ける限り、今後の給付額を際限なく減額しなければならない。

しかし、日本の公的年金の給付額は決して高い水準ではない。

現役世代の平均賃金との比率でみた厚生年金と基礎年金の合計額(所得代替率)は、OECDの「Pension at a glance」(男性、2021年)によれば38.7%に過ぎず、米国(50.5%)、ドイツ(52.9%)、およびOECD平均(62.4%)を大きく下回っている。

年金手帳
写真=iStock.com/tamaya
※写真はイメージです

日本人がもらう年金は欧米より12~23%も少ないのだ。それにもかかわらず、前出の所得代替率38.7%を見かけ上は50%超にして数字を“盛って”いる。カラクリはこうだ。

所得代替率は通常、「個人単位」でみるのが一般的だ。ところが、日本ではあえて専業主婦の基礎年金も加えた「世帯単位」で示している。また、分母の平均賃金から税・社会保険料を控除する一方で、分子の年金は実額のままとするといった操作で数字を引き上げているのである。

国際的に低い日本の年金水準を、今後、マクロ経済スライドを働かせることで、さらに引き下げれば、老後の所得保障の手段としての公的年金の機能を果たすことはいっそう困難となる。国民の老後生活は明らかに苦しくなり、老後破綻のリスクを高めるに違いない。