ハリーと似た立場の秋篠宮さま
『スペア』を読んでいると、どうしても日本の皇族と比較してしまう。天皇家の次男として生まれた秋篠宮さまは、ハリーと立場は似ているが、取り巻く環境も国民からの視線も異なる。「どうせ自分は予備だし」と卑屈になったり、兄弟で高校時代にボディーガードを丸め込んで御所の地下室に男女の学友を密かに招き入れ、たばこ、酒、麻薬を持ち込み夜通しパーティーを楽しんだりする姿など想像もできない。
おふたりの間に、ウィリアムとハリーのような兄弟の確執は存在するのだろうか。皇后さまがまだ皇太子妃であった2004年、皇太子さまは「雅子の人格を否定するような動きがある」という衝撃の発言をされたが、それに対して秋篠宮さまは「せめて陛下と話してから会見すべきでは……」とやんわり苦言を呈した。また女性天皇容認への声が高まった2006年には、偶然と言いきれないタイミングで悠仁さまがお生まれになり、愛子さまが天皇となられる可能性は衰萎した。
もし宮家の誰かが『スペア』のような回顧録を出すとしたら、皇室を離れた眞子さまだろうか? そこでは、英国王室と並ぶ驚きのエピソードが暴露されるかもしれない。しかし、この本のように、北極探検中、性器にしもやけができ、エリザベス・アーデンのスキンクリームを塗ったら効いたとか、パブの裏で「年上の女性」相手に童貞を捨てた、といったえげつない話は、どう考えても出てこないだろう。
ちなみにこの「年上の女性」は油圧ショベルの運転手で、相談もなく本の中に匿名で描かれたことに激怒。新聞に「その相手は私」と名乗り出て新たな騒ぎを巻き起こしている。
歴史は繰り返す……
メーガンとの出会いから始まる最後の章は、ロマンス小説さながらだ。いきなりおとぎ話のような世界に突入し面食らう。過去のガールフレンドたちとは全く違うタイプのアメリカ人女性に「運命の出会い」を感じたハリーが、激しく恋に落ちていく様子はほほえましい。だが、王室離脱の詳細を含む最後までこの調子は続き、段々とげんなりしてくる。
王族男性がアメリカ人女性と恋に落ちたのは、ハリーが初めてではない。大叔父にあたるエドワード8世王はバツイチの既婚者ウォリス・シンプソン夫人にほれ込み、王位を捨ててしまった。その弟、つまり「スペア」だったはずの内気なジョージ(故エリザベス女王の父)は、1936年に思いがけず国王の座に就くことになる。シンプソン夫人は、態度が横柄だった上に、米国文化を英国王室に持ち込もうとしたとかで、いまだに英国人からよく言われない存在だ。
だから「新しいガールフレンドはアメリカ人女優で離婚歴あり」という話をハリーから聞いたウィリアムとキャサリンは、シンプソン夫人の例を思い出し頭を抱えたようだ。このため、「ウィリアムとキャサリンが、メーガンが黒人であることを理由に交際や結婚に反対した」というハリー夫妻の主張は、人種差別にこじつけているようでやや違和感がある。ちなみに婚約者として登場した頃の世間の空気を覚えているが、キュートな笑顔に世間の好感度は高く、メディアが「黒人プリンセス」と書くまで彼女はラテン系だと思っていた人も多い。