有給取得を「年6日かつ冠婚葬祭」に限定した会社

最後に、これまでの解説を踏まえて、有給休暇の取得に関する裁判例をいくつか紹介したいと思います。

(1)有給休暇の取得を妨害したことが違法と判断された事例①――甲商事事件(東京地判平成27年2月18日労働経済判例速報2245号3頁)

この事例では、会社が、有給休暇の日数を年6日と限定し、さらに、取得できるのは原則として冠婚葬祭や病欠の場合のみで、それ以外は欠勤扱いにする旨の通達を社内に出したことの違法性が争われました。余談ですが、労働事件の裁判例は、今回紹介する事件に限らず、当事者となった会社の名称で呼ぶことが多いです(会社としては迷惑な話ですね)。

裁判所は、労働者に有給休暇を取得する権利が発生した場合には、使用者は、労働者がその権利を行使することを妨害してはならない義務を労働契約上も負うとしました。その上で、取得できる有給休暇の日数を勝手に6日間に限定したり、しかもその取得理由を冠婚葬祭や病気休暇に限るとしたことは、労働者に対して、労基法上認められている有給休暇を取得することを萎縮させるものであり、労働契約上の債務不履行にあたると判断しました。この取得妨害行為についての慰謝料は、50万円が認められています。

なお、会社側は、通達はあくまでも社員としての心構えを示したものに過ぎず、有給休暇の取得を妨害する意図はないと主張していましたが、裁判所は、総務課において通達という形式で文書を作成し、従業員に回覧させている以上、それが有給休暇の取得を妨害する意図がなかったという主張は不自然であり合理性を欠くものであると一蹴しています。

「有給を取ると評価が下がる」と言われた塾講師

(2)有給休暇の取得を妨害したことが違法と判断された事例②――日能研関西ほか事件(大阪判平成24年4月6日労働判例1055号28頁)

この事件では、有給休暇取得を申請した塾講師(原告)に対して、

①「有給申請により評価が下がる」などと上司が発言して有給休暇取得を妨害したこと
②申請を取り下げた有給休暇の予定日に、もともと上司自身が担当する予定であった業務を原告に割り振ったこと
③有給申請を取り下げさせたことを原告らが抗議した翌日及び翌々日に、上司が原告に対して業務の変更を指示したこと
④総務部長や会社代表者らが上司の行為を擁護した発言などの違法性

が争われました。

第一審では、①のみが違法に有給休暇取得を妨害したものと判断されました。しかし、控訴審では、①に加えて、②・④も違法と判断されました。

②については、第一審は正当な業務指示であるとして違法性を否定しましたが、控訴審は、有給休暇を申請したことによる嫌がらせであり違法であるとしています。他方、③については、原告は、この業務変更指示によって業務が増大していることから、有給休暇取得を申請したことの嫌がらせであると主張していましたが、第一審・控訴審ともに、嫌がらせには当たらないと判断しています。

④については、原告の名誉感情を侵害する違法なものと判断されています。