チケット収入が大幅増でも賃金は据え置きにされていた

オリエンタルランドはコロナ禍の打撃によって2021年3月期だけは大きな赤字を記録しましたが、その後の業績は大きく回復しています。過去10年間、好業績の原動力となったのが2010年代に入ってから何度も繰り返されてきた値上げでした。入園者1人当たりのチケット収入は6年前(2017年度)の5339円から2023年3月期の予想では7628円と4割以上も上がったわけです。

にもかかわらずダンサーやキャストなど非正規労働者の賃金を6年間、なぜ賃上げしなくてもよかったのかというのがこの問題の本質で、理由はそれでも採用できたからでしょう。

今、中小企業の経営者に「一番の経営課題は何か?」と尋ねると、円安や原材料の値上げ、光熱費の上昇の話も出ますが、最大の経営課題は人が採れないことです。もうここ何年もの間、慢性的な人手不足が続いているにもかかわらず、ここが不思議なところなのですが、日本の場合は賃金上昇が起きませんでした。

中小企業に比べればはるかに採用競争力があるイオンのような大企業が、非正規労働者の賃金を低く抑えていたこともその一因です。オリエンタルランドの場合はダンサーやキャストとして働きたいという希望者がいる限り、採用面では買い手市場の状況が続くわけで、結果として6年間もの間、賃金が凍結状態になってしまったのではないでしょうか。

ディズニーランド「メリー・ポピンズ」のダンス
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日本でブラック企業が幅を利かせてきた理由

そしてこのような賃金に関するマクロ経済環境が続いてきた結果、繁栄したのがブラック企業です。賃金が上がらない限りデフレ経済が続きます。そしてデフレ経済では安ければ安いほど商品もサービスも売れることになります。

景気が悪く、労働者から見ても仕事に常に不安がつきまとうような経済状況では、離職も起きにくい。結果、極端に安い売価に設定した飲食チェーンが、非正規労働者を最低賃金近辺で雇い、厳しいシフトやオペレーションで働かせるようなビジネスモデルが成立します。

ブラック企業がなくならないのは倫理道徳の問題もありますが、実は経済学的な問題も大きいのです。性悪説的な観点にはなりますが、「もうかるのならば企業はグレーなビジネスにも力を入れる」というのが日本経済の実情です。過去のデフレの20年間では、店舗数を増やせば増やすほど利益が出るブラックチェーンビジネスやブラックオーナー商法が増加していきました。

皮肉なことに、こういった労働者の苦境を変えられるのは政治や行政よりも、企業がもうかるかもうからないかに力学的なポイントがあります。

これまではもうかるからブラック企業が幅を利かせていました。でもそれがもうからなくなれば、企業はブラックビジネスモデルを簡単に放棄します。ブラックビジネスの場合は従業員やオーナーのなり手がいなくなれば拡大できなくなります。