同じ場所をぐるぐる回っているように見えるが…

コロナの感染対策では、「第○波」と呼ばれた感染の波に合わせ、感染者が増えると規制が厳しくなり、減ると緩和。再び増えると厳格化を繰り返してきました。この循環を上から見ると、同じ場所をぐるぐる回っているように見えます。

しかし横から見ると、昔の芝居小屋で存在した投げ銭のような古びたものが、現代のネット技術で一段新しい仕組みとして、ぐるぐる回りながらも上に向かって登場している。私はこれを「螺旋的発展」と読んでいます。テーゼとアンチテーゼの間を行ったり来たりしているように見えるけれど、そこには互いのいい部分を取り込んでジンテーゼに向かう上昇力が働いている。ヘーゲルの時代から人類はそうやって発展してきたのではないでしょうか。

――確かに正と反で綱引きをしているだけでは、進歩はありませんね。

【村井】そうなんです。そこでJリーグは同じ悩みを抱えるNPB(日本プロ野球機構)と協力し、日本最高レベルの感染対策、疫学などの専門家をお呼びして「世界最高の感染対策」を考えました。ここで依拠したのもやはりJリーグの理念です。

試合も大事だが、お客さんがいることがもっと大事

【村井】Jリーグは「豊かなスポーツ文化の振興」を目指しているわけですから、ずっと試合を止めているわけにはいきません。本来1シーズン34節であるところがチームによっては30節で終わっても構わないから、とにかく試合は継続したい。そうすると不公平による大きなリスクを避けるために、そのシーズンの降格はなしにしようとか、さまざまな緊急措置を考えました。

「文化」とは「主観」の集合体です。お客さんはスタジタムに強制されて来るのではなく、自らの主観でフットボールを楽しむために足を運んでくれます。その流れを止めてはいけない。お客さんのいない無観客試合では文化は育たないのです。

だから「ウイルスをばらくようなことは絶対にしない」と決めた上で、専門家の知恵をお借りして有観客の道を探りました。そうすると5000人を上限にお客さん一人一人の席を離して市松模様にすれば、飛沫ひまつ感染はまず起こらないという案が生まれてきました。

その結果、ガイドラインと検査体制をしっかり整えて選手を安全にすればサッカーはできる。さらにお客さんと安全な感染環境を作れば有観客でも試合は開催できるというエビデンスを社会に戻すことができました。