基本は「おはよう。ありがとう。ごめんね」から
――ドイツ代表は個々の能力だけでなく、チームとしても頭ひとつ抜けていた気がします。決勝戦でもアルゼンチン代表のメッシにほとんど仕事をさせませんでした。
【村井】そこが選手同士、あるいは監督、コーチと選手の「関係性」ではないか。白金幼稚園のお母さん、お父さんに私はそう話しました。マサチューセッツ工科大学、組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キム教授によると、「おはよう。ありがとう。ごめんね」を幼稚園で教えることがとても大事で、これができると「関係の質」が上がります。
すると「僕はこう思う。私はこう思うんだけど」という「思考の質」が上がります。思考の質が上がると「じゃあ、一緒にやってみようか」と「行動の質」が上がり、最後に「できたね。よかったね」と「結果の質」が上がります。この順番が大事なのです。
多くの場合、親や教師は子供と接する時「あの子ができるのに、なんでお前はできないんだ」「どうしてあんなミスをしたんだ」と「結果の質」から入ってしまいます。そうすると相手は心のシャッターを閉じてしまいます。こうなると子供同士も楽しくなくなって、いろんな物事が回らなくなる。だからまずは「関係の質」を上げるところから始めるべきだ、というのがキム教授の説で、私もそうだと思います。
半径10メートルの「関係の質」を上げる
――同じことが会社でも言えそうですね。
【村井】まったく同じですね。私はリクルートエージェントという転職支援の会社で社長をしていましたが、「今の会社を辞めたい」と言ってくる人の退職理由の8割はその人の半径10メートル以内に原因がある。要はその人と周囲の「関係の質」が低かった。会長派と社長派の対立みたいなことがある会社にろくなことはありません。半径10メートルで「おはよう。ありがとう。ごめんね」が普通に言えない可能性があるのです。
私がいたリクルートは1989年にリクルート事件という大変な事件を起こしますが、半径10メートルの「関係の質」がとても高かったので、「みんなで乗り越えよう」となりました。
Jリーグで私が心がけていたのは副理事長の原博実さんと将来を語り合うことでした。チェアマンの私と副理事長の原さんの関係がよければ、部長と課長の関係も良くなる。Jリーグ全体で「関係の質」の連鎖が向上するのです。
最近はパワハラとかの問題があるので「おはよう」くらいは言っても相手の心の中には踏み込まない。少し距離を置いて差し障りのない関係を保つことが多くなっていますが、これを良い「関係の質」だとは思いません。相手の心に土足で踏み込むのも良くないですが、相手の気持ちをしっかり理解した上で、本音で向き合うことが、すごく大事なんじゃないかと思います。