スタートアップの達人たちの5つの行動原則

スタートアップとは、イノベーションをテコに起業後の短い期間で大きな成長を果たす事業体である。Google、Facebook、Amazonなどはその典型であり、事業を開始した後の短い期間で、経済的な成功のみならず、産業や社会に大きなインパクトをもたらしている。

バージニア大学ビジネススクールのサラス・サラスバシー教授が主導しているエフェクチュエーション研究は、こうした成長性の高い起業の達人に特有の行動を捉えようとするプロジェクトからはじまった(サラス・サラスバシー『エフェクチュエーション』碩学舎、2015年)。教授が提示したエフェクチュエーションの5つの行動原則(図表1)は、スタートアップを生み出すようなイノベーションを導く論理として、世界的に注目度が高まっている。

エフェクチュエーションは、熟達した起業の達人の行動の解明を目指す研究から生まれた。しかし、そこで解明された論理の意義は、起業を経済的な成功に導き、ビジネスに貢献することだけにとどまらないかもしれない。熟達した起業家の行動を検証するなかで見いだされた論理が、ビジネス上の成功を超えたより大きな何かに貢献するものである可能性は、少なからず残されているはずである。

サイボウズ株式会社の中村龍太氏は現在、同社の執行役員をつとめている。一方で中村氏は、副業でコラボワークスという会社を運営し、後述する9つのサービス事業を展開している。

中村氏は、日本人にとっての新しい働き方に関するひとつのモデルを提供してくれる人物である。そして中村氏は、その副業の体験から、エフェクチュエーションの論理を実践することは、人生の幸福度を高めることにも役立つと述べている(「副業ではなく『複業』こそ、人生を豊かにするわけ」『経営情報学会誌』Vol. 31 No. 2, September 2022)。起業とは、そして副業とは何のために行うものなのかを、私たちは再考してみるべきではないか。筆者は、中村氏に話を聞いた。