大ヒット漫画『呪術廻戦』

日本を代表する文化であり、一大コンテンツ・ビジネスでもある漫画の世界においても、過去の名作の優れた部分を真似て取り入れ、新しく組み合わせて「新たな面白さ」を生み出すことからヒットが実現されている。

過去の名作に通じる部分を持った「○○っぽい面白さ」や「○○に似ている面白さ」という評価は、何も悪いことではなく、ほめ言葉である。それだけ読者にとってなじみがあり、受け入れられやすい。その上に、新たなストーリー、キャラクター、セリフ、表現といったオリジナリティーが積み重なることで「新たな面白さ」に昇華される。

教室で隣の子と一緒に資料を見ている男の子たち
写真=iStock.com/SteveStone
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その良い例として、週刊少年ジャンプで連載中の漫画『呪術廻戦』が挙げられる。『呪術廻戦』は、名作へのオマージュを意図的に取り入れていることでよく知られるが、新たな面白さを生み出していて、絶大な人気を誇る大ヒット作だ。

2018年3月から連載をスタートした『呪術廻戦』はすぐに人気を集めると、2020年10月から放映されたTVアニメ第1期でさらに火がつき、アニメ前に850万部だった発行部数が2022年8月には7000万部を突破するほど爆発的な人気となっている。2021年12月に公開された映画『劇場版 呪術廻戦 0』も大ヒットを記録し、興行収入は国内で138億円、世界全体では265億円を超え、2023年7月からは待望のTVアニメ第2期の放送が控えている。

『BLEACH』や『幽☆遊☆白書』へのオマージュをあえて出す

『呪術廻戦』作者の芥見下々さんは、過去の漫画やアニメ、国内外の映画から受けた影響をたびたび公言しており、それらへのオマージュを作品に散りばめている。中でも、久保帯人さんの『BLEACH』、冨樫義博さんの『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』へのオマージュは色濃く、あえて近い構図を採用したり、登場人物のセリフに出したりしている。

芥見さんと久保さんの対談では、初めてあいさつした折、芥見さんが「『BLEACH』に影響を受けて漫画を始めたんです」と言ったところ、久保さんが「いや、冨樫さんだろ」と返したエピソードが語られている(『呪術廻戦 公式ファンブック』「特別対談 芥見下々×久保帯人」220ページより)。また、芥見さん自身で「どこかで見たことのある作風に定評がある」と、ある種、自虐的に面白く書いているほどだ(スピンオフ小説『呪術廻戦 逝く夏と還る秋』のプロフィール欄より)。読者は、「どこかで見たことのある作風」や名作へのオマージュを分かったうえで、それでも『呪術廻戦』に新たな面白さを感じて楽しんでいるからこそ、大ヒット作になっている。